歯医者というと「虫歯」が思い浮かびますね。
「歯医者が苦手…」「まだ痛くないし…」
と、虫歯に気づきながらそのまま放置している人がいるかもしれませんが、虫歯は自然に治りません。
わたしは虫歯治療に2つの方針をもっています。
ひとつは「虫歯除去に手用器具を使うこと」もうひとつは「拡大鏡を使うこと」です。
虫歯治療に、拡大鏡と手用器具を使うようになった経緯
虫歯をとるには、
①高速ドリルで一気に削ってしまう
②低速ドリルで虫歯を取り除く
③手用器具で虫歯を取り除く
といった3つの方法があります。
勤務医時代と高崎で診療をおこなうようになって初期のころは、低速ドリルで虫歯を除去していました。
低速ドリルも手用器具も先端は1mmほどと、とても小さく、肉眼では操作状況が見えないので勘や経験による器具操作となります。
「どうせ、勘や経験に頼るのならば、ドリルのほうが確実だろう」そう考えていました。
ただ、数年後に 拡大鏡を用いるようになって、考えが変わりました。
拡大鏡は2.5倍⇒4倍⇒6倍、とステップアップしていったのですが、拡大率が4倍あたりから治療視野が明らかに変わり、6倍になると治療している場所を完全に目で確認することが出来るようになったのです。
そして驚くことに、6倍に拡大した状態で 低速ドリルで処置したところを見ると、虫歯を取り残していることがほとんど。
そこで、確実に虫歯を取り除けるようにエキスカベーターという手用器具に変更しました。
エキスカベーターは小さな耳かきのような器具で、虫歯を過不足なく取り除けます。振動はありませんし、音もしません。
硬い部分は削れないので健康な部分の過剰切削を防げ、 一番確実な方法です。
治療内容は、虫歯の大きさによって変わります
ここでいったん、虫歯の大きさによる治療内容の違いについて少しお話しします。
虫歯は大きさによる分類がありC0⇒C1⇒C2⇒C3⇒C4 と数字が大きくなるにつれ、大きな虫歯になります。
初期虫歯への対応
通常、初期虫歯であるC0やC1の段階では歯を削りません。
CO、C1、両方とも「再石灰化」による進行停止が期待できるので、経過観察するのが標準治療です。
COは歯の表層部(エナメル質)の結晶が少し壊れた、虫歯になりかけの状態。
( “O” は、英語の “オー” で、observation(観察)の略)
C1は歯の表層部(エナメル質)に限局した浅い虫歯。
CO、C1の虫歯を削るのは、悪い1%を治すために99%の健康な部分を削りとる本末転倒な話です。
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象牙質に届いた虫歯
「しみる・痛い」という症状がでるのは、虫歯が象牙質に届いてから。この段階までに歯医者にいらしていただくと神経が残せます。
前歯はプラスチック
虫歯が象牙質に届いた場合、前歯には保険診療で白いプラスチックを詰めます。
おおよその費用は3割負担で、1箇所 1500円前後。
上の写真は、古くなって黄ばんだ前歯の詰め物を、白いプラスチックで治しています。
麻酔して着色部分を取り除き、プラスチックを詰めました。
4~5年でまた変色するかもしれませんが、そのときは再び治せば大丈夫です。
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奥歯の虫歯
以前は、奥歯の歯の間に大きな虫歯ができた場合、保険診療では金属の詰め物一択だったのですが、2022年4月の保険改定で条件が合えばCADCAMインレーという白い詰め物が保険で出来るようになりました。
型取りしてつくり、おおよその費用は3割負担で1歯4000~4500円前後です。
なお、CADCAMインレーは壊れやすいので、耐久性を求める場合は昔から使われている金属製の詰め物をおすすめします。
前から4番目、5番目の歯はCADCAMインレー(保険の白い詰め物)
前から4番目、5番目の歯はすべてのケースでCADCAMインレーが保険適応です。
「この場所はCADCAMインレーという詰め物と、昔からある金属製の詰め物のどちらでも治せます。
CADCAMインレーは白くて綺麗ですが壊れやすく、金属製の詰め物は丈夫ですが色が目立ちます」
とお話しして、どちらで治すか選んでいただいています。
80%程度の人は「多少壊れやすくてもCADCAMインレーでお願いします」とのお答えです。
CADCAMインレーを2つセットしたケース
前から5番目の歯にCADCAMインレーをセットしたケース
前から6番目の奥歯は条件が合えばCADCAMインレー
2022年の改定では、上下左右の最終奥歯が全てそろっていることが条件で、前から6番目の歯(第一大臼歯)にもCADCAMインレーが出来るようになりました。費用は3割負担で約4500円です。
※CADCAMインレーは壊れやすいので、耐久性を求める場合は金属製の詰め物をおすすめします。
前から7番目の奥歯は金属の詰め物
2022年現在は、前から7番目の歯(第2大臼歯)は、保険診療では金属の詰め物しか認められていません。
保険の金属は「金銀パラジウム合金」に制度化されています。
保険の金属は硬いので良くないという意見もありますが、わたしはそうは思いません。
もっと硬い素材であるセラミックやジルコニアもあるぐらいです。
保険診療でも、手順通りの型どりをして指定混水比の石膏で模型をつくれば、適合は良いです。
なお、前から7番目の奥歯でも咬む面のみでしたら下の写真のようにプラスチックで治せるケースもあります
以下、2020年7月追記
虫歯をとって神経が露出したとき、以前は 全てのケースで神経を除去していましたが、
1「歯がしみない」「噛んでも痛くない」
2 神経が生活している
(出血の量、神経の色などから判断します)
という条件にあてはまれば、「直接覆髄」(ちょくせつふくずい)という治療法で、神経を保存できるかもしれません。
詳しくは「露出した神経を保存」をご覧ください。
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神経に届いた虫歯
虫歯を放置すると徐々に大きくなり、最終的に歯の中心部にある神経に到達します。
すると神経に炎症が起き、「すごくしみる・すごく痛い」といった急性症状がでます。
こうなると、もう手遅れ。
神経を除去して、根管治療をしないと症状はとれません。
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神経の除去~根管治療
「少し前から歯がしみるときがあったけど、昨日から、すごく痛くなってしまって…」とおっしゃって来院された方です。
レントゲンを撮ったところ、虫歯が神経に届いていました。
この状態になると、神経が細菌感染し強い痛みが起こります。痛みをとるため神経を除去し、根管治療に移行しました。
根管治療は終了するまで最低でも4~5回の通院が必要。
その後、土台をつくり、被せものをします。
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このときは銀歯をセットするまで6回の通院。保険診療で銀歯を2つ装着しました。
「まだそれほど痛くないし」「穴が開いてるけど、忙しいしな」と思う気持ちもわかりますが、 虫歯は放置すると進行します。
「歯に穴があいた」「歯がしみる」「歯に黒い部分がある」など、歯の異常に気づいたら早めに歯医者にいらしてくださいね。