「なんとか神経を残してほしい」
神経のある無しで、歯の寿命が変わるので、わたしはなるべく神経を残すようにしています。
さて、虫歯をとって神経が露出したとき、以前は全てのケースで神経を除去していましたが、
1「歯がしみない」「噛んでも痛くない」
2 神経が生活している
(出血の量、神経の色などから判断します)
という条件にあてはまれば、「直接覆髄」(ちょくせつふくずい)という方法で、神経を保存できる可能性があります。
適応症であれば、成功率は90%以上
直接覆髄は、露出した神経の上にクスリをのせて封鎖する治療法で、うまくいくと露出した神経を残せます。
ただ、従来の成功率は60%~70%程度。失敗すると強い痛みが出るので、一般開業医がおこなうことはほとんどありませんでした。
ところが、アメリカのデンツプライ社が1998年に市販したProRoot MTA(プロルート エムティーエー)という薬を使うと、適応症さえ間違わなければ、直接覆髄の成功率が90%以上になることがだんだんわかってきます。
細かい話は省きますが、MTAは水分で膨張しながら硬化するという性質があり、これによって非常に良好な封鎖が得られるからです。
その後、デンツプライ社の特許が切れたことで、2000年代後半からさまざまな会社が類似品の販売を始め、オリジナル製品と比べて安価にMTAが入手できるようになり、
わたしは、ペントロンジャパン社が販売している エンドセムMTA premixedという製品を使っています。
MTAによる直接覆髄は保険診療でおこなっています
直接覆髄法は保険診療に収載されていて、MTAは「歯科用覆髄材料」として薬事承認されています。
ですので、わたしは保険診療でMTAによる直接覆髄をおこなっています。
オリジナル製品であるProRoot MTAはとても高価で、1回の使用で約1万円分を消費しますが、
エンドセムMTA premixed は販売価格が約1万円、30回前後使用できるので 1回の消費分は350円程度。これなら保険に使用できます。
3万円程度のチャージをとって自費でMTAを使っている医院は、おそらくオリジナル製品を使っているのだと思いますが、後発品のMTAでも効果は十分。わざわざ高いクスリを使う必要はありません。
直接覆髄法のご注意
痛みが出たとき、当院の予約が込みあっている場合、急には対処できません
なお、文献にもよりますが、MTAによる直接覆髄の成功率は90%程度。つまり10回に1回は失敗する訳です。
失敗すると、神経に感染が生じ「歯髄炎(しずいえん)」という状態になり、とても強い痛みがでます。
不幸にして痛みが出たとき、当院の予約が込みあっている場合、急には除痛処置ができませんので、その点をご了承できない方には直接覆髄をおこなっておりません。
神経の感染は、長期間(数ヶ月~数年)で徐々に生じる場合があり、術後数週で処置が成功したか確定判断できませんが、
目安としては、1ヶ月程度の経過観察をとっています。
虫歯が大きく、「しみる」「噛むと痛い」などの症状があるときは、直接覆髄では治りません
また、最初に書きましたように、直接覆髄は「虫歯の穴はあるけれど歯がしみない、噛んでも痛くない」という状態が適応です。
虫歯が大きくなり「しみる」「噛むと痛い」などの症状が出ている場合は、直接覆髄をしても治りませんので、神経を除去し根管治療で対応することになります。
直接覆髄はラバーダムが必須
直接覆髄にスーパーテクニックは必要ありません。
虫歯を完全除去したあとに、よく洗浄し、露出した神経にクスリをのせるだけです。
ただ、唾液による感染を防ぐためラバーダム防湿が必須。
施術をご希望の方はラバーダムをしてくれる歯科医院を選ぶようにしてくださいね。
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