リグロスについて
「リグロス」という歯周病のクスリが2016年、保険診療に認可されました。
これは大阪大学歯学部が研究開発したクスリで、条件にあった場所に使えば歯周病によって失われた歯槽骨(歯の周りの骨)が再生します。
大学が開発し臨床試験をしたうえに、保険診療という国のお墨付きをもらい「満を持しての登場」といったところです。
一般開業医から見たリグロス
ただ、実際に歯科開業医が使うにはいくつか不都合な点があります。
それは
①患者さんサイドから見て、効果が実感できない
②準備治療の期間が長い
③適用部位が限られる
ということ。
患者さんサイドから見て、効果が実感できない
患者さんが治療に満足する重要な点に「効果が実感できる」ということがありますが、リグロスはその点がやっかいです。
リグロスの作用は「フラップ手術の術中にクスリを塗っておくと、1年後ぐらいに歯の周囲骨が数㎜増える」です。
ただ、歯槽骨が数mm回復しても、その人のお口の感覚はほとんど何も変わりません。(その割に特殊な薬剤なので治療費は高くなります)
「効果がある」ということと「効果が実感できる」ということは違いますので、そのことを理解できる人にでないと応用できません。
準備治療の期間が長い
リグロスの使用はフラップ手術が前提です。保険診療でフラップ手術に移行できるのは
歯周基本検査
⇒ スケーリング
(縁上歯石の除去:通常1~2回)
⇒ SRP(縁下歯石の除去:通常6回)
⇒ 2週間以上あけて
⇒ 歯周精密検査
⇒ フラップ手術
という手順を踏んでから。
ですので、最短でも2か月ぐらいの準備期間が必用です。
適用部位が限られる
リグロスの適用部位は、「歯周ポケットの深さが4㎜以上で、骨欠損の深さが3㎜以上の垂直性骨欠損」とかなり限定的。
歯周病の歯すべてに使えるわけではありません。
また、歯間ブラシなどの歯磨きがしっかり出来る人でないと効果はないです。
リグロスはフラップ手術中に塗布すると、+アルファがあるクスリ
リグロスは塗るだけで歯周病の歯が治るといった魔法のクスリではなく、フラップ手術の最中に塗布すると、+アルファの効果が得られるといったクスリ。
歯周病治療をサポートするクスリというかたちで捉えたほうが良いと思います。
以上のような理由から、わたしは歯周病治療をしている人全員におすすめしていなく、歯周病についてある程度理解していて歯磨きがしっかり出来ている人が適応だと思っています。
(念のために書きますが、リグロス自体は大学の研究機関が開発し効果が実証されたとても有能なクスリです)
リグロスの治療例
リグロスを虫歯と歯周病が複合的にすすんだ方に使ったケースをご紹介します。
リグロスの適用は「歯周ポケットの深さが4㎜以上で、骨欠損の深さが3㎜以上の垂直性骨欠損」とかなり限定的ですが、幸いなことにこの方は適応症です。
歯間ブラシなどの歯磨きもしっかり出来ています。
リグロスはフラップ手術の術中に使うクスリですから、使用に際してはフラップ手術が前提。
保険診療でフラップ手術に移行できるのは
歯周基本検査
⇒ スケーリング
(縁上歯石の除去:通常1~2回)
⇒ SRP(縁下歯石の除去:通常6回)
⇒ 2週間以上あけて
⇒ 歯周精密検査
⇒ フラップ手術
という手順を踏んでからなので、最短でも2か月ぐらいの準備期間が必用。
今回は4か月ほどの準備期間でした。
事前に患者さんに説明し、同意を得たのちに1時間かけてフラップ手術をしました。
術中の写真は撮ってないので割愛させていただきますが、手術の最後にリグロスを塗布しました。
整髪料のジェルみたいな透明ゼリー状のクスリです。
下が7カ月後のレントゲン写真。
数㎜の骨が再生しました。
追記:適応外だった場合、リグロスはおこなえません
リグロスはどのような歯周病にも効くのではなく、適応外におこなってもまったく効果はありません。
具体的に言うと、リグロスが効くのは歯周病が3壁性骨欠損という状態で、歯の揺れが軽度のときです。
歯の揺れが重度のときは、ほとんどのケースで周囲骨が均等に無くなる水平性骨欠損という状態で、そこにリグロスをおこなうと、フラップ手術によって歯の周囲の肉芽組織がなくなり、かろうじて歯をハグキにとめていた上皮性付着が消失し、術後に歯の揺れがさらに増して、最終的には歯が抜けてしまうことがほとんどです。
「効かないかもしれないし、最終的に歯が抜けてもいいからリグロスをして欲しい」という人もときどきいらっしゃいますが、保険診療は自己負担金以外の9割~7割を国に請求します。
保険診療でリグロスをおこなった歯が早期に抜けてしまうことが相次ぐと、昨今の医療財政の圧迫もあって行政から医療費の無駄遣いと判断され、わたしが行政に呼ばれることになってしまいます。
重度の歯周病でお悩みの方がリグロスの情報を求めてこの記事にたどりつき、その中には、実際に医院にいらして
「先生、歯周病が進んでいるのでダメかもしれないでしょうが、なんとかリグロスをしてもらえないでしょうか…」とおっしゃる場合がありますが、
レントゲンなどで診査して適応症のときだけリグロスをおこなえることを何卒ご理解ください。
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