入れ歯の治療でちょくちょく歯医者に行ってるけど、いっこうに良くならない… どうしたらいいの…
あなたは、そのようにお悩みではありませんか?
入れ歯の治療は、型どり、咬み合わせ、向かい合った歯の状態、バネをかぶせる歯の形態などが総合的に絡み、ノウハウや経験が必要な難易度が高い分野です。
入れ歯治療との出会い
内田デンタルは、もともと「内田歯科医院」という名称。
昭和4年に祖父が開設した診療所です。
祖父から父が引き継ぎましたが、父は平成19年にガンになって急に亡くなり、わたしが引き継ぎました。
歯医者に通院する患者さんは、その先生と同年代が多くなる傾向があります。
父が亡くなったのは60代中盤でしたので、患者さんもその年齢層が多かったです。
60代は歯を喪失する年齢。いわば「入れ歯年齢」で、入れ歯の患者さんがとても多い状況でした。
臨床例が少ない若い先生は入れ歯が苦手なことが多く、かくいう自分もそれまで入れ歯を手がけたことは少なく、 引継ぎ当初 非常に困りました。
父はかなり癖のある自己流の入れ歯を作成していたので、古い入れ歯を参考にすることも難しい状態でした。
ただ、患者さんは「入れ歯をつくって欲しい」「入れ歯をなおして欲しい」「入れ歯があたって痛い」と、来てしまいます。
入れ歯の治療は、型どり、咬み合わせ、向かい合った歯の状態、バネをかぶせる歯の形態などが総合的に絡み、難易度が高い分野。
すぐに上手にはなりません。
そこから数年間は、試行錯誤、勉強の日々。
良いものを求め材料を変更したり、名医と呼ばれる先生の講習会に参加したり、学会に入ったり、成書をもとにいろいろな方法を試したり、と様々なことをしました。
習ったことを実践し、結果を確認しながら修正するのを繰り返しました。
そうこうして、4~5年経つと様々なことがわかり始め、
患者さんから「前の入れ歯より良い」「いろいろ噛める」といった声が聞こえるようになってきました。
入れ歯の4つのポイント
入れ歯のポイントは大きくわけて4つ。
「入れ歯が合わない…」「入れ歯が痛くて噛めない…」などとお悩みの方は、たいてい下の①~④のどれかに不備があります。
① 咬み合わせ平面
② 型取り
③ バネ・沈下防止装置・フレームの配置
④ 顎の水平的位置
① 咬み合わせ平面の修正
咬み合わせ平面が乱れると、物を噛んだときにかかる力が不均一になり、「入れ歯が外れる」「特定の部分が痛い」などが頻繁に生じます。
わたしが入れ歯をつくるときは2~3か月以上になることがほとんどですが、それは咬み合わせ平面を治していくから。
どういうことなのかイメージしずらいと思いますので、実例を挙げましょう。
「最近、入れ歯をつくったのだけど、すぐに落ちてしまう… 何とかならないでしょうか? 」
とおっしゃって来院された方です。
お口の中を拝見したところ、理由がわかりました。
かみ合わせ平面が斜めなので入れ歯が回転するのです。
このままだと、何回作っても上手くいきません。
黄色い〇の部分がとくに問題。
咬み合わせ平面の修正は、入れ歯の修理を繰り返しながら、ひとつひとつ被せものを外すので、時間がかかります。
途中中断という訳にはいきませんから、患者さんの同意を得てからおこないます。
まず、左を修正しました。
入れ歯を削り落とすだけなので簡単にできました。
つぎに、右の咬み合わせを修正するため、被せものを外して仮歯にします。
前歯も、修正のため仮歯にかえました。
咬み合わせの変更にあわせて、入れ歯の削除、盛り上げを繰り返しています。
4カ月後、全体の咬み合わせ修正が終わりました。
咬み合わせラインが水平になると、噛んだ時にかかる力が均等になって、入れ歯が外れなくなります。
② 粘膜の状態、骨の状態を取りこむ「筋圧形成」という型どり
入れ歯を作るときは、食事や発音時の粘膜の状態、骨の状態を取りこむ「筋圧形成」という入れ歯専用の型どりをします。
開業するまでの勤務医時代は入れ歯の型どりを、安価で操作性が良いアルジネートという材料でしていました。
勤務医のときはそれで事足りていたのですが、 高崎に戻るとハグキの吸収した入れ歯難症例が多く、それまでの方法では上手くいきません。
いろいろ試した挙句、個人トレーとコンパウンドで筋圧形成し、シリコン印象材で仕上げする方法に落ち着きました。
細かい説明は専門的になるので省きますが、この型どり法は、再現性、粘膜と歯の被厚変位量の補正、セッコウ注入などの点に優れ、吸着力のある外れない入れ歯になります。
③ 構造(力学的な最良の位置に維持装置を設定)
入れ歯の設計には「支持・維持・把持」という3要素があります。
支持は、沈み込み防止
維持は、入れ歯の脱離抑制
把持は、横揺れ防止
バネ、沈下防止装置、フレームをどのように配置するかで「支持・維持・把持」の作用が変化し、入れ歯の出来が変わります。
そこで、画一的にならないように各ケースで一番良好となるように設計しています。
バネをかける歯を形態修正し着脱面をそろえて入れ歯を安定させ、
症例によっては各装置を一体型で鋳造したワンピースフレームにして、入れ歯の剛性も高めます。
④ 顎の水平的位置の測定
歯の数が減ると顎の動きが不安定になることがあります。(お年寄りで顎がフガフガしている状態です)
顎の動きが不安定だと咬み合わせが横にずれやすく、ずれた状態で入れ歯を作るとほとんど咬めません。(わたしも何度か失敗しました)
そこで、「ゴシックアーチ」という検査をして下顎の水平的位置を測定することがあります。
上の写真がゴシックアーチの装置です。
「顎の水平的位置の測定例1」
右に少し動きづらそうですが、顎の動きは安定しています。
カチカチ咬む場所(赤の点)と下顎を後ろに引いた場所(やじるしの先)が一致したところに、入れ歯の咬み合わせを設定しました。
「顎の水平的位置の測定例2」
顎の動きが不安定です。
幸いなことに、カチカチ咬む場所(赤の点)と下顎を後ろに引いた場所(やじるしの先)が一致したので、そこに咬み合わせを設定しました。
ただし… 入れ歯には難症例があります
ただし… 入れ歯を学べば学ぶほど、限界がわかるようになってきます。
なぜなら入れ歯には難症例が存在するからです。
コンビネーションシンドローム
難症例のなかでも、一二を争う難しいケースが 「コンビネーションシンドローム」と呼ばれる状態。
下の前歯の突き上げによって、上の入れ歯は回転して簡単に落ちます。
噛み合わせ平面を修正しないケース
また、噛み合わせ平面を修正しないケースで、良い結果は望めません。
下は、「上の入れ歯が痛いし、落ちてしまうので何とか出来ないですか…」とおっしゃって来院された方。
咬み合わせ平面が曲がり、噛んだ時に入れ歯を滑らす力が働いています。
下の被せものを除去し、咬み合わせ平面を修正してから入れ歯をつくれば状況は改善するかもですが、それには数か月必要。
90歳近くの年齢で、大変な治療はご本人が望んでいなく、現状のままでいく方針へ。
このままの状態で新しい入れ歯を作っても良くなる見込みは少ないことをお話しし、何もせず今の入れ歯を使うことにしました。
入れ歯治療が上手くいかないと予測される場合は…
わたしとしてはどんなケースも何とかして差し上げたいのですが、歯医者は神様ではありませんので、すべての状況を改善できるわけではありません。
難しいケースはそう話さざるを得ませんし、無理やり先にすすめて修正不能な状況を作りだす訳にもいきません。
その点はご理解していただくより他なく、
どうやっても入れ歯治療が上手くいかないと予測される場合は
「かなり難しいケースなので上手くいくかどうかは、やってみないとわかりません」
「これが入れ歯の限界です」
と正直にお話ししています。
すると、なかには立腹する患者さんもいて、
という辛辣な口コミをいただいたこともあります。
(なお、上記口コミに「医者は全て出来ると思ったら大間違い」「これから先は責任が持てない」と脅かされたとありますが、そのような強い口調で患者さんに話すことはありません。
また、2020年2月現在、スタッフ全員が4年以上在籍していますので、スタッフがいつかない医院というコメントは実際と異なっています)
自分の歯が残っている方はその歯を大事にしてください。
入れ歯にならないのが一番です。
まずは入れ歯で
いろいろ書きましたが、いずれにしろ、わたしは歯が無くなったときにインプラントを勧めるのではなく、「まずは入れ歯で」といった方針。
自分の技量の範囲でですが、入れ歯で困っている人の力になれたらと思います。