『硬質レジン前装冠』と『金銀パラジウムクラウン』

保険の被せ物①でお話ししたように最近はぜんぜん銀歯を使わなく、被せ物のほとんどCADCAM冠です。2024年に金属系を装着した割合は23%でした。

2024年CADCAM系修復物の割合

でも、逆に言うと23%はまだ銀歯(金属系修復物)を使っているわけです。

どうしてかというと

それは、以下の3パターンだとCADCAM冠やPEEK冠を使えないからです。

CADCAM冠やPEEK冠を使えない3パターン

虫歯が進みすぎて『残根(ざんこん)』の状態になった歯を、無理して治療するとき

噛み合わせの力が強すぎてCADCAM冠だと壊れてしまうとき

『保険のブリッジ』を選んだとき

保険診療での金属系被せ物は「硬質レジン前装冠」と「金銀パラジウムクラウン」の2種類。

CADCAM冠やPEEK冠を使えない場合は、『硬質レジン前装冠』か『金銀パラジウムクラウン』のどちらかになります。

「硬質レジン前装冠」

硬質レジン前装冠の適用範囲

「硬質レジン前装冠」は『金属フレームに白いプラスチックを貼った被せもの』

単独歯の治療では前からから3番目、ブリッジのは治療で前から5番目までが保険の適用範囲です。

(レジンとはプラスチックの別称です。クルマの撥水コートなども「レジンコーティング」と呼ばれています)

『金銀パラジウムクラウン』

金銀パラジウムクラウンの適用範囲

「金銀パラジウムクラウン」は、皆様のイメージする銀歯です。

単独歯の治療では前から4番目~8番目、ブリッジの治療では前から6番目~8番目が保険の適用範囲です。

CADCAM冠やPEEK冠を使えない場合の具体例

では、CADCAM冠やPEEK冠を使えない場合について、治療例をまじえながら説明していきます。

①虫歯が進みすぎて『残根(ざんこん)』の状態になった歯を、無理して治療するとき

虫歯が進み過ぎて、残っている歯がハグキの下に潜り込んでしまった状態を『残根(ざんこん)』と言います。

残根の歯

『残根』は残念ながら抜歯となる状態

”抜きたくない” という気持ちはあるかもしれないですが歯を残すのは難しいことをお話しし、抜歯の計画を立てます。

しかし、患者さんによっては「無理にでも残してほしい」とおっしゃることがあります。

たいていの残根は歯が小さくなりすぎて被せ物をすることが物理的に無理なので、「そういわれても、これだけ虫歯が進んでいるとどうにもならないのです。 ”抜く”以外の方法はありません」とお答えするのですが、

残根の歯(2本)

まれにギリギリ残せるような残根もあり、

「本来は抜くべき歯なので、治したとしても1カ月とか2カ月。もしかしたら1週間でダメになるかもしれません。それでいいのなら治療してみましょう」

という会話になることもあります。

そして、そのようなときは

「ただし、たとえ歯を残せたとしても銀歯になりますので、その点はご理解ください」とお話しします。

歯肉圧排後の出血

残根となり虫歯がハグキの下にまで進んでしまった場合、型どりするときに血が混じってしまい、どこまでが歯で、どこまでがハグキかが模型に再現できなくなります。

そうすると、技工所がCADCAM冠・PEEK冠を作れないのです。

しかし昔からある金属タイプの被せ物なら、技工士さんが何とか作ってくれます。

(ただし、技工士さんもだいたいこんな感じかな?という状態で、かなりアバウトに作ることになります。いつまで持つかわからない歯ですので残根になったらやっぱり抜いたほうがよいと思います)

下の写真は残根を残したケースです。

小臼歯の残根

「左上の歯がとれて、根っこだけになってしまいました」とおっしゃって来院された方です。

残根の虫歯を完全に除去したあと

虫歯をすべて除去したところ、残っている歯はハグキの下にある『残根(ざんこん)』の状態でした。

「残念ながら虫歯が進み過ぎて、たとえ治したとしても1カ月とか2カ月。もしかしたら1週間でダメになるかもしれませんので抜いたほうが良いです」

とお話ししましたが「何とか治してほしい」と何度もおっしゃるので、

「たとえ治したとしても、どこまで持つかはまったくわかりません。銀歯になりますし、せっかく治しても、もしトラブルが起こったら抜歯となりますよ。それでも良いですか?」とお話ししたところ、

「それで良いです」というお返事でしたので治療しました。

2024年から「金銀パラジウムクラウン」「硬質レジン前装冠」の単冠修復には ”補綴物維持管理” という保険診療のルールが無くなったので、もし抜歯となったら前後の歯を利用したブリッジに移行する予定です。

セットしたFMC

6回の通院で銀歯(金銀パラジウムクラウン)をセットしました。セット時の費用は3割負担で1本約6000円です。

横から見たFMC

やっぱり銀歯は目立ちますね。

このようにして無理やり残根を残したとしても残根は歯が薄くなっているのでいつ歯根破折(歯の根が割れること)を起こすかわかりません

歯根破折が起きたら抜歯確定です。

そもそもほとんどの残根は残すことは出来ませんので、その点はしっかりとご理解ください。

②噛み合わせの力が強すぎてCADCAM冠だと壊れてしまうとき

CADCAM冠には「過度な咬合圧が加わらない場合において使用する」という保険診療のルールがあり、噛み合わせの力が強すぎる場合は金属製の被せ物を選ぶことになります。

擦り減った上顎前歯

上の写真は歯ぎしり・くいしばりをする方で、歯にかかる強い力によって歯の擦り減りが起きていました。

歯が擦り減って小さくなって食事がしにくくなったので、歯のサイズを回復させる目的で被せ物をしました。

このような噛み合わせの力が強いケースにCADCAM冠を使うと壊れます

CADCAM冠では強度不足なのです。

ですので金属系の「硬質レジン前装冠」で治しました。

装着した4本連結の硬質レジン前装冠

「硬質レジン前装冠」は『金属フレームに白いプラスチックを貼った被せもの』で、

単独歯の治療では前からから3番目、ブリッジのは治療で前から5番目までが保険適用です。

前から見た4本連結の硬質レジン前装冠

約2ヶ月の治療期間を経て、4本連結した硬質レジン前装冠をセットしました。

硬質レジン前装冠の治療費は、3割負担でセット時に1本約6000円です。

この方は4本同時のセットなので装着時に合計24,000ほど(4本同時に装着、3割負担)でした。

硬質レジン前装冠は「色調が不自然に見えることがある」「経年劣化し徐々に変色する」という性質があり、審美性を重視する人には 「自費の被せもの(セラミック) をおすすめしています。

③『保険のブリッジ』を選んだとき

CADCAM冠・PEEK冠の材料は、各歯科メーカーから販売されているCADCAMブロック・PEEKブロックです。

厚労省が保険診療で認可しているCADCAMブロック・PEEKブロックは1歯単位です。

ヤマキン製CADCAMブロック

ブリッジの構造は最低でも3歯以上の一体型のため、CADCAM冠やPEEK冠による保険のブリッジを作ることはできなく、保険診療のブリッジは通常は下のような金属製のブリッジとなります。

保険のブリッジの写真

「硬質レジン前装冠」はブリッジのは治療で前から5番目までが保険適用の範囲で、
「金銀パラジウムクラウン」はブリッジの治療では前から6番目~8番目が保険適用の範囲です。

詳しくは 保険の被せ物③「保険のブリッジ」をご覧になってください。

ブリッジでの硬質レジン前装冠の適用範囲ブリッジでの金銀パラジウムクラウンの適用範囲

歯医者サイドも「銀歯は嫌」なのです

「銀歯はちょっと嫌だな…」そう思う人は多いです。

歯の見た目が金属というのはあまり好ましいものでないですから、当然の話と言えます。

でも、実は歯医者サイドとしても「銀歯は出来ることなら避けたい」のです。

保険診療で使う歯科用金属は「12%金銀パラジウム合金」と厚労省が決めていますが、世界的な貴金属価格の上昇によってここ20年で 「12%金銀パラジウム合金」の価格は10倍以上も値上がりしました。

歯科用12%金パラジウム製品買取価格の20年経過図

それにも関わらず、保険診療での金属系被せ物(「硬質レジン前装冠」「金銀パラジウムクラウン」)の価格はここ20年で1.5倍程度しか上昇していません。

もともと利幅の少ない保険診療なのに、金属系被せ物(「硬質レジン前装冠」「金銀パラジウムクラウン」)にしてしまうと、金属代が高すぎて医院の利益がほとんどありません

患者さんは「銀歯は嫌だな」と思うでしょうけど、歯医者サイドも「銀歯は嫌」なのです。

 

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