今回は、保険の被せものについてお話ししてみようと思います。
保険の歯でもきちんとお食事はできますので、「見た目へのこだわりが少なく、不自由なく食事できるようになれば良い」という人は、無理に自費治療をする必要はありません。
保険診療はお金のある無しに関わらず万人が治療を受けられます。
若い人は歯の自費治療をする余裕がないかもです。
育ち盛りの子供がいて大変な主婦や、住宅ローンを背負いながら頑張って働いているお父さんにとっても、歯の自費治療は大きな出費かもしれません。
そんなとき、保険はとても有難い存在です。
(※保険改訂にともない2025年に内容を大幅修正しました)
保険の被せものは、歯の位置によって種類が限定されます
保険診療は国(厚生労働省)の決めた制約(材料の種類、治療の順序、治療の方法など)があり、保険の被せものは、歯の位置によって種類が限定されます。
と言われても歯科業界の人たち以外はなんだかよくわからないと思いますので、解説していきます。
内田デンタルが保険診療で銀歯を使う割合は20%程度
歯医者といえば「銀歯」そんなイメージがあるかもしれませんが、それは一昔前の話。
2020年ごろから保険診療に強化プラスチック製のCADCAM冠、CADCAMインレーといった白い詰め物・かぶせ物が相次いで導入されました。
この記事を書いているのは2025年4月ですが、内田デンタルで2024年にセットした被せ物・詰め物で銀歯を装着した割合はたった23%です。
CADCAM冠
CADCAM冠の素材は強化プラスチック。
歯科メーカー各社(GC、松風、トクヤマetc)が四角いブロックを販売し、それを特殊な装置で削りだして作ります。
完成品のブロックにはプラスチックの未重合層がほとんど無いので着色が起こりにくいです。
CADCAM冠は2014年に前から4番目5番目の歯(小臼歯)へ導入され、その後2018年に奥歯、2020年に前歯というふうに保険適用が進みました。
前歯のCADCAM冠
前歯CADCAM冠を2本いれた治療例
「上の前歯がかけて金属が出たので、新しく作ってもらえますでしょうか」と言っていらした方で、前歯の被せ物が破損していました。
2本連結した被せものが入っています。
いろいろお話をしたところ、「先生…、わたしの状態だとCADCAM冠というので治せるとインタ―ネットで見たのですが、それで出来ますでしょうか」とおっしゃいました。
どうやら、前歯にはCADCAM冠が保険適用されているのをご存知のようです。
CADCAM冠は材質的に弱い素材なので、「何年か使っていると取れたり壊れたりすることがありますがよろしいですか?」とお話ししたところ、「大丈夫です」とのお答えでした。
ファイバーポスト(グラスファイバー製の土台)を入れてから、歯の形を修正し型取りします。
前歯CADCAM冠が出来ました。
セットしました。綺麗だと思います。
前歯へのCADCAM冠は2020年の保険改定で出来るようになりました。
価格は3割負担の方でセットの際は1本7000円ほどです。
この方は6回の通院回数でした。
糸切り歯(犬歯)に前歯CADCAM冠をいれた治療例
「上の歯に穴がある」と来院された方で、前から3番目の歯(犬歯)が虫歯になっていました。
神経に届いた虫歯でしたので、根の治療(根管治療)をおこなっています。
その後、CADCAM冠が入るように歯を削りました。
CADCAM冠をセットしました。
この方は8回の通院回数でした。価格は3割負担の方でセットの際に1本7000円ほどです。
犬歯は下顎を横に動かすときの力がかかって歯の裏側がすり減ることがあります。
CADCAM冠は柔らかい素材なのであまりにも擦り減りが速い場合は、硬質レジン前装冠(金属系の被せ物)や自費のセラミック(ジルコニアやe-Max)の方が良いかもしれません。その点は注意深く観察していこうと思います。
前から4番目5番目の歯にCADCAM冠
前から4番目5番目の歯(小臼歯)も「CADCAM冠」の適用部位です。
下のケースは、2014年にCADCAM冠が保険適用になった頃のケース。もう10年近く前の症例ですので写真がちょっと古めかしいですね。
「右上が咬むと痛い」とおっしゃっている方のレントゲンを撮ると、前から4番目、5番目の歯の根の先に膿が溜まっていました。
まず、大きい膿から治療を始めます。
数回治療後、根のくすりが入り、大きい膿があった歯は咬んでも痛みを感じなくなりました。
手前の歯はまだ咬むと痛いので、そちらの根の治療もおこないます。
いったん、仮歯で様子をみます。
10日間ほど様子を見て、問題なかったので型どりしました。 セッコウ模型にして技工所へ渡します。
1週間ほどで仕上がり、技工所から模型が戻りました。
CADCAM冠のセットは「接着処理」が必須。
歯と冠内面に表面処理剤を塗ってから、接着性セメントを使い、歯と冠を一体化させました。
この方は2本の根管治療をおこないましたので、合計12回の通院でした。
価格は3割負担の方はセットの際に1本6000円ほどかかります。このケースは2本同時に装着したのでセット時の料金は合計12,000円程度です。
条件がそろえば、大臼歯 CADCAM冠
2018年に条件付きで前から6番目の歯にCADCAM冠が導入され、2024年には条件付きで前から7番目の歯も保険適用となりました。
大臼歯CADCAM冠の治療例
上の写真の方は、奥歯の被せものが外れて来院されました。
2018年以前は、この場所への保険の選択肢は銀歯のみ。
白いものを希望する場合、自費でセラミックをいれるしか方法がありませんでした。
ただ、今は条件がそろえば保険で「白い被せもの」(CADCAM冠)を選べます。
「この場所は、以前は保険は銀歯しか出来なかったのですが、今は保険で白い被せものも選べます」
とお伝えしました。
3割負担の方だと、銀歯は約6000円で、白い被せものも約6000円。
CADCAM冠は、数年で割れてしまうこともありますので、
「白い被せ物の価格は銀歯とほとんど同じです。
見た目は銀歯より綺麗になりますが長年使っていると割れることもあります。割れたら新しく作り直すことになりますが、どうしますか?」
とお話ししたところ、
「多少、強度が落ちても綺麗なほうが良いので、白いほうでお願いします」
とのこと。
CADCAM冠になりました。
国(厚生労働省)が貴金属価格の高騰でプラスチック系統の材料の導入を大きく進めているのですが、いずれにしろ、白いほうが喜ばれます。
上の写真のようにセットしました。
自費のセラミックにすると8万円。
大臼歯CADCAM冠だと6000円ほど。
たとえ数年で割れて、何回か作り直したとしても料金的にはセラミックの数分の一で済みます。
大臼歯で材料の厚みが確保できない場合は『エンドクラウン』
CADCAM冠は強度のために一定の材料の厚みが必要で、そのため、仕方なく銀歯になることがありました。
この点を改善すべく、2024年に保険導入されたのが『エンドクラウン』
『エンドクラウン』は土台(コア)と被せ物が一体型となった構造で、材料の厚みを確保できます。
2024年に保険収載されたのは前から6番目、7番目、8番目の歯へのエンドクラウンです。
これにより ”CADCAM材料の厚みが確保できないから奥歯が銀歯になる” という問題が解決しました。
前から4番目、5番目の歯もCADCAM材料の厚みが確保できないことがあるので、この部位のエンドクラウンも保険導入してほしいところです。
なお、エンドクラウンは構造上、神経をとった歯にしか適用できません。
エンドクラウンの治療例
「左上の奥歯がかけてしまいました」とおっしゃって来院した方です。
左上7番に入っていた被せものが擦り減って壊れていました。
他院でいれた被せ物だったのですが、歯の高さがないので被せ物の厚みが確保できすに割れたのでしょう。
「同じような被せ物だとまた壊れると思います。土台と被せ物が一体型になっている『エンドクラウン』というタイプにしたほうがよいのですが、どうしますか?」
とお尋ねしたところ、
「そうしてください」というお返事でした。
レントゲンで確認したところ、神経がとってあります。
根の病気はなかったので、再根管治療をしないでそのまま使用することにしました。
2回目の来院時に古い被せ物を除去し、プラスチックで補修してからエンドクラウン用に真ん中をくり抜くように歯を削り、仮歯をいれました。
仮歯で2種間ほど様子をみます。
問題なかったので3回目来院時に型どりし、『エンドクラウン』を作りました。
土台(コア)と被せ物が一体型になっています。
4回目来院時にエンドクラウンをセットしました。
この方は根管治療をしなかったので来院回数が比較的少ないのですが、根管治療が必要な場合は10回前後の来院になると思います。
価格は3割負担の方でセットの際、1本8000円ほどです。
エンドクラウンは横から見たときの、自分の歯と被せものとの境目が目立つので頬側からの見た目が良くない仕上がりになる可能性があります。
材料の厚みが確保できる場合は通常のCADCAM冠になりますので、エンドクラウンをおこなうのはレアケースです。
なお、『大臼歯CADCAM冠』『エンドクラウン』には厚労省の定めた下の条件があります。
『大臼歯CADCAM冠』と『エンドクラウン』の条件
①大臼歯CADCAM冠・エンドクラウンを装着する側の反対側に上下の大臼歯が咬み合っている場所(咬合支持)がある。
②-1 大臼歯CADCAM冠・エンドクラウンを装着する側の同側に他の上下の大臼歯が咬み合っている場所(咬合支持)がある。(ブリッジのダミーの歯でも可)
②-2 対合歯が義歯か歯が無い状態で、大臼歯CADCAM冠の手前(5番)まで自分の歯がある。
(※②は1もしくは2のどちらかを満たす)
PEEK冠(2023年12月より保険適用)
2023年12月には「PEEK冠」が保険適応されました。
PEEKとは「ポリエーテル エーテルケトン」の略で、簡単に言うと「非常に耐久性のあるプラスチック」。耐久性はCADCAM冠よりかなり高いです。
「PEEK冠」の適用部位は、前から6番目、7番目、8番目(親知らず)の歯で、費用は3割負担で約6000円ほどです。
注意点として『PEEK冠は色が不自然な白さ』で見た目があまり良くないです。
PEEK冠は条件を問わずに1歯単位ですべての奥歯(大臼歯)に使用可能なので、大臼歯CADCAM冠の適用条件を満たさなかったり、神経がある歯(生活歯)でエンドクラウンが使用できないときに使います。
保険診療で認可されているPEEKブロックは1歯単位なのでブリッジには使用できません。
PEEK冠の治療例①
「他院で根の治療をしているが、なかなか良くならないので見てほしい」とおっしゃって来院された方です。右下奥歯(第2大臼歯)が根管治療の途中になっていました。
ラバーダムをして根管治療をおこない、その後にグラスファイバー製の土台(ファイバーコア)を装着します。
本来だったら大臼歯CADCAM冠にするのですが、嚙みしめ力が強い人だったためCADCAM冠が適用できなくPEEK冠にしました。
出来上がったPEEK冠。
PEEK冠をセットしました。根管治療を含めて6回の通院です。
PEEK冠の色はチョークのような不自然な白色です。独特の色が少し気になりますね。
セット時の費用は3割負担で1本約6000円~7000円です。
PEEK冠の治療例②
「右上の奥歯が水でしみる」とおっしゃって来院された方です。調べてみると前から7番目の歯に大きな虫歯がありました。
虫歯が神経に届いていたので、ラバーダムをしてから神経を取り根管治療をおこないます。
その後、グラスファイバー製の土台(ファイバーコア)を入れました。
下顎大臼歯に歯が無い場所があり大臼歯CADCAM冠が適用できないケースなので、PEEK冠となりました。
型どりしてPEEK冠をセットしました。根管治療を含めて7回の通院です。セット時の費用は3割負担で1本約6000円~7000円です。
なお、
①虫歯が進みすぎて『残根(ざんこん)』の状態になった歯を、無理して治療するとき
②噛み合わせの力が強すぎてCADCAM冠だと壊れてしまうとき
③『保険のブリッジ』を選んだとき
はCADCAM冠やPEEK冠を使えないことがあります。その場合は金属系被せ物の『硬質レジン前装冠』、『金銀パラジウムクラウン』のどちらかになります。
詳細は「CADCAM冠やPEEK冠を使えない3パターン」をご参照ください。
「硬質レジン前装冠」
「硬質レジン前装冠」は『金属フレームに白いプラスチックを貼った被せもの』
単独歯の治療では前からから3番目、ブリッジのは治療で前から5番目までが保険の適用範囲です。
『金銀パラジウムクラウン』
「金銀パラジウムクラウン」は、皆様のイメージする銀歯です。
単独歯の治療では前から4番目~8番目、ブリッジの治療では前から6番目~8番目が保険の適用範囲です。
保険の被せ物についてまとめると下の図のような感じです。
かなり複雑なルールですね。
さて、ここでひとつ、お話ししておくことがあります。
それは、
『金属色の見た目が気になるという理由で銀歯を外し、保険診療でCADCAM冠やPEEK冠などの白い被せものに変えることはできない』
ということ。
「見た目が気になって被せものを白くしたいけど、自費治療だと高価で出来ないし…、でも保険なら費用的に何とかなる」そう思って、
「歯そのものは問題ないけれど、綺麗にしたいので保険のCADCAM冠に変えてもらえないでしょうか?」
と質問されるときがありますが、
残念ながらそれは自費治療となります。
健康保険は『病気になった人』を国民全員で積み立てたお金や税金を使って何とかしてあげようという助け合いのシステム。
『身体は健康だけど、もっと綺麗になりたい』という個人の願望を満たす治療に、国民全員が積み立てた『病気の人を助けるためのお金』は使えないのです。
CADCAM冠・PEEK冠などの保険の被せ物は虫歯や根の病気、冠の破損など、現在入っている歯の不具合がある場合に適用できます。
CADCAM冠などの保険診療は「病気を治す」のが目的。
「病気になっていない歯だけど、見た目を綺麗したい」という要求は、審美目的なので保険の範囲外です。(美容整形に保険が効かないのと同じ理由です)
また、「歯並びが悪いのをCADCAM冠で治せませんか?」というご質問もときどきありますが、歯並びを治す治療には健康保険が使えないことも、あらかじめご理解ください。
健康保険は『病気になった人』を助けるシステム
健康保険は『病気になった人』を国民全員で積み立てたお金や税金を使って何とかしてあげようというシステム。
『身体は健康だけど、もっと綺麗になりたい』という個人の願望を満たす治療に、日本に住む人たち全員が積み立てている『病気の人を助けるためのお金』は使えないのです。
とはいっても『綺麗になりたい』という欲求は当然のように人間が持つ願望。
自分の価値観のために自分の稼いだお金を使うのはその人の自由ですので、『審美診療・美容診療』をご希望の方は健康保険を使わずに自由診療で治療を受けていただけますでしょうか。
歯肉圧排法での型どり
ちなみに、内田デンタルは保険も自費もほぼ全ての型どりに、歯科医のわたし自身で「歯肉圧排(しにくあっぱい)」という処置をしています。
歯とハグキのあいだに糸を挿入して型どりする方法で、最初に細い糸、次に太い糸をいれて、型取りの直前に太い糸を外します。
すると糸の圧力でハグキが外側に移動し、削った歯のラインが鮮明にでます。
これをすると被せものの合い具合が良くなり、虫歯の再発を予防できます。
シリコン印象での型取り
また、2020年から保険・自費にかかわらず、すべての被せものを、シリコン印象という精密材料で型取りしています。
シリコン印象は材料が高価なため、保険の使用がコスト的に難しかったのですが、Ciメディカルという歯科通販会社が材料を安価に卸してくれるようになって、保険への使用が出来るようになりました。
シリコン印象をすると、模型の精度が上がり、被せものの合い具合が良くなるので、2次虫歯の発生率が下がります。
ときどきインターネットで「保険の被せものは2次虫歯になりやすいので良くない」といった記事を見ますが、あれは寒天アルジネート印象で安易に型取りしたときの話。
歯肉圧排をして、シリコン印象で型取りすれば、保険と自費に精度の違いはありません。
審美性を優先したいセラミックなどは自費でしかできませんが、通常のブリッジや被せものは保険でも十分な出来となります。
いろいろな歯医者のホームページを見ると…
いろいろな歯医者のホームページを見ていると、マイクロスコープやインプラントなど、自費治療の優位性をうたっているものが多いです。
もちろん、わたしも自費治療をおこなっていますし、その良さを皆さんにお話ししています。
ただ、実際にWeb経由でいらした患者さんと話しますと、こうしてインターネットを見て歯医者を探している方の半数以上は
「そんなものすごい自費治療でなくて、保険診療をしてほしい」のではと思えます。
世の中それほど経済的にゆとりがある人ばかりではありませんし、患者さん全てに最先端の治療が必要ではないからです。
実際、お越しになる患者さんの半数以上はどこかが欠けた、取れてしまったなどの軽度の症状や、重度であっても保険治療を望む方々です。
そのようなこともあり、当院は保険診療をしっかりとおこなっています。
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