今回は、保険の被せものについてお話ししてみようと思います。
保険の歯でもきちんとお食事はできますので、「見た目へのこだわりが少なく、不自由なく食事できるようになれば良い」という人は、無理に自費治療をする必要はありません。
保険診療はお金のある無しに関わらず万人が治療を受けられます。
若い人は歯の自費治療をする余裕がないかもです。
育ち盛りの子供がいて大変な主婦や、住宅ローンを背負いながら頑張って働いているお父さんにとっても、歯の自費治療は大きな出費かもしれません。
そんなとき、保険はとても有難い存在です。
保険の被せもの は、歯の位置によって種類が限定されます
保険診療は国(厚生労働省)の決めた制約(材料の種類、治療の順序、治療の方法など)があり、保険の被せものは、歯の位置によって種類が限定されます。
と言われても歯科業界の人たち以外は、なんだかよくわからないと思いますので、ひとつずつ解説します。
硬質レジン前装冠
前からから3番目までは「硬質レジン前装冠」という「金属フレームに白いプラスチックを貼った被せもの」の適用になります。
3割負担で約6000円です。
(レジンとはプラスチックの別称です。クルマの撥水コートなども「レジンコーティング」と呼ばれています)
硬質レジン前装冠の治療例①
「前歯が黒くなってきたので、治せますか? 」 と来院された方です。
硬質レジン前装冠のプラスチック部分が薄くなり、下地の金属が見えた状態でした。
除去して、プラスチック部分の厚みが適正となるように歯の形を修正します。
しばらく仮歯で様子をみながら、ハグキの治療(歯石除去やクリーニング)や他の歯の治療をおこないました。
その後、型どりして、もともと入っていたのと同じ硬質レジン前装冠をつくります。
セットしました。
定期的なクリーニングをしたほうが良いことをお話しし、メンテナンスへ移行しています。
硬質レジン前装冠の治療例②
「右上の前歯が噛むと痛い」とおっしゃって来院された方で、レントゲンを撮ると根の病気でした。
5回ほど根管治療をします。
その後、型取りして「硬質レジン前装冠」をセットしました。
綺麗にできたと思います。期間は根の治療も含めて約2ヶ月でした。
なお、硬質レジン前装冠は「色調が不自然に見えることがある」「経年劣化し徐々に変色する」という性質があり、
審美性を重視する人には 「自費の被せもの(セラミック)」 をおすすめしています。
CADCAM冠
前から4番目5番目の歯は「CADCAM冠」という被せものの適用。
2014年より保険適用されたもので、高強度プラスチックのブロックを器械で削り出して作ります。3割負担で約5000円ほどです。
CADCAM冠は、厚生労働省に施設基準の申請をしないとを製作できないため、扱っていない歯科医院もあります。
CADCAM冠の治療例
「右上が咬むと痛い」とおっしゃっている方のレントゲンを撮ると、2ヶ所ほど根の先に膿が溜まっていました。
まず、大きい膿から治療を始めます。
数回治療後、根のくすりが入り、大きい膿があった歯は咬んでも痛みを感じなくなりました。
手前の歯はまだ咬むと痛いので、そちらの根の治療もおこないます。
いったん、仮歯で様子をみます。
10日間ほど様子を見て、問題なかったので型どりしました。 セッコウ模型にして技工所へ渡します。
1週間ほどで仕上がり、技工所から模型が戻りました。
CADCAM冠のセットは「接着処理」が必須。
歯と冠内面に表面処理剤を塗ってから、接着性セメントを使い、歯と冠を一体化させました。
2020年から、前歯にもCADCAM冠が可能となりました
2020年の保険改定によって前歯にもCADCAM冠が出来るようになりましたので、2ケースご紹介します。貴金属価格の高騰を受けて、厚労省は脱金属にかじを取っているようですね。
なお、前歯CADCAM冠は噛み合わせの力が大きい人には適用できません。
前歯CADCAM冠を2本いれた治療例
「上の前歯がかけて金属が出たので、新しく作ってもらえますでしょうか」と言っていらした方で、前歯の被せ物が破損していました。
2本連結した被せものが入っています。
いろいろお話をしたところ、「先生…、わたしの状態だとCADCAM冠というので治せるとインタ―ネットで見たのですが、それで出来ますでしょうか」とおっしゃいました。
どうやら、前歯のCADCAM冠が2021年4月から保険適用されたことをご存知のようです。
CADCAM冠は材質的に弱い素材なので、「何年か使っていると取れたり壊れたりすることがありますがよろしいですか?」とお話ししたところ、「大丈夫です」とのお答えでした。
ファイバーポスト(グラスファイバー製の土台)を入れてから、歯の形を修正し型取りします。
前歯CADCAM冠が出来ました。
セットしました。綺麗だと思います。
前歯CADCAM冠は、2021年に保険収載されたので長期症例がありませんから今後どのような経過をたどるかはわかりませんが、個人的には良い材料だと思います。価格は3割負担の方でセットの際、1本6000円~7000円ほどです。
この方は6回の通院回数でした。
糸切り歯(犬歯)に前歯CADCAM冠をいれた治療例
「上の歯に穴がある」と来院された方で、前から3番目の歯(犬歯)が虫歯になっていました。
神経に届いた虫歯でしたので、根の治療(根管治療)をおこなっています。
その後、CADCAM冠が入るように歯を削りました。
CADCAM冠をセットしました。
~CADCAM冠ができないケース~
なお、CADCAM冠などの保険の被せ物は虫歯や根の病気、冠の破損など、現在入っている歯の不具合がある場合に適用できます。
「歯そのものは問題ないけれど、綺麗にしたいので保険のCADCAM冠に変えてもらえないでしょうか?」と質問されるときがありますが、残念ながらそれは自費治療となります。
CADCAM冠などの保険診療は「病気を治す」のが目的。
「病気になっていない歯だけど、見た目を綺麗したい」という要求は、審美目的なので保険の範囲外となってしまいます。(美容整形に保険が効かないのと同じ理由です)
また、「歯並びが悪いのをCADCAM冠で治せませんか?」というご質問もときどきありますが、歯並びを治す治療には健康保険が使えないことも、あらかじめご理解ください。
条件がそろえば、下顎大臼歯 CADCAM冠
保険診療は2年に1回、改定があり、内容がどんどん変わっていきます。
2018年の改定では、上下左右の最終奥歯が全てそろっていることが前提で、下の前から6番目の歯に、保険で白い被せものが出来るようになり、2020年の改定では上の前から6番目の歯も適用となりました。費用は3割負担で約6000円です。
下顎大臼歯CADCAM冠の治療例
上の写真の方は、奥歯の被せものが外れて来院されました。
2018年以前は、この場所への保険の選択肢は銀歯のみ。
白いものを希望する場合、自費でセラミックをいれるしか方法がありませんでした。
ただ、今は条件がそろえば保険で「白い被せもの」(CADCAM冠)を選べます。
「この場所は、以前は保険は銀歯しか出来なかったのですが、今は保険で白い被せものも選べます」
とお伝えしました。
3割負担の方だと、銀歯は約3000円。白い被せものは約6000円。
CADCAM冠は、数年で割れてしまうこともありますので、
「白い被せものは銀歯と比べて多少高くなります。
また、見た目は綺麗になりますが長年使っていると割れることもあります。割れたら新しく作り直すことになりますが、どうしますか?」
とお話ししたところ、
「多少、強度が落ちても綺麗なほうが良いので、白いほうでお願いします」
とのこと。
CADCAM冠になりました。
国(厚生労働省)が貴金属価格の高騰でプラスチック系統の材料を導入し始めているのですが、いずれにしろ、白いほうが喜ばれます。
上の写真のようにセットしました。
自費のセラミックにすると8万円。
大臼歯CADCAM冠だと6000円ほど。
たとえ数年で割れて、何回か作り直したとしても料金的にはセラミックの数分の一で済みます。
最初にお話ししましたように上下左右の最終奥歯が全てそろっていることが前提で、前から6番目の歯への適応と、条件が限定されるのですが、おすすめしている被せもののひとつです。
なお、大臼歯CADCAM冠・高強度硬質レジンブリッジを装着した人には、保険診療でのマウスピースがつくれません。
なお、大臼歯CADCAM冠・高強度硬質レジンブリッジ には「過度な咬合圧が加わらない場合において使用する」というルールがあります。
噛み合わせる力が強い代表的な例が「歯ぎしり」
ですので、大臼歯CADCAM冠・高強度硬質レジンブリッジ ををセットした人には保険の「歯ぎしり用マウスピース」が作れません。
金銀パラジウムクラウン
上述のように、最近はいろいろな場所が保険で白くできるようになりましたが、残念ながら金属しか適用できないところも存在します。
その場所は奥歯。
強度の点から、金属しか保険で認められていません。
ですので、前から6番目7番目8番目は「金銀パラジウムクラウン」という「金属の被せもの」 になります。
費用は3割負担で6000円前後です。
金銀パラジウムクラウンの治療例
「上下の奥歯に穴があいてきて、ズキズキ痛いんです」と来院された方です。
数年ぶりの歯科受診で大きな虫歯がありました。
レントゲンを撮ったところ、虫歯が神経に届いた状態。
ズキズキ痛むのは神経に細菌が侵入したからです。残念ながら神経の保存はできず、根の治療になりました。
麻酔をしたのちに神経を除去し、3回、根の治療をおこないました。
根の中が綺麗になり不快症状が取れたあと、充填材で根管を封鎖しています。
その後、仮歯をいれ様子をみましたが、大丈夫でしたので「金銀パラジウムクラウン」をセット。
条件がそろえば、高強度硬質レジンブリッジ
保険診療は厚生労働省が決めたルールで運営されていて、2年に一度、改定されます。
2018年の保険改定では、いろいろ新しいものが保険適用され、そのひとつが「高強度硬質レジンブリッジ」
グラスファイバー繊維によって強度を補強したプラスチック製のブリッジです。
(レジンと言うのは、プラスチックの別称)
これによって、上下の奥歯が全てそろっている条件を満たせば、前から5番目の歯が抜けたときに、保険で白いブリッジができるようになりました。
3割負担の方だと、型取りするときに約7000円、装着するときに1万5000円ほどの費用です。
なお、金属と比べて強度が落ちますので、長年使用すると壊れることがあります。
高強度硬質レジンブリッジの治療例①
他院で「歯が縦に割れて、抜かないといけない」と言われて転院してきた方です。
調べたところ、歯根破折を起こしていました。こうなるともう抜かないと治せません。
その旨をお話しし、納得していただいてから抜歯させていただきました。
さて、抜いた後にどうするか。
今回の抜歯は下の5番。
幸いなことに、上下すべての奥歯があるので「高強度硬質レジンブリッジ」が適用できます。
「この場所は、以前は保険では銀歯のブリッジしか出来なかったのですが、今は保険で白いブリッジも選べます。
銀歯と比べて多少高くりますし、長年使っていると壊れることもありますが、どうしますか?」
とお話ししました。
すると、
「白いほうでお願いします」とのこと。
高強度硬質レジンブリッジの予定になりました。
抜歯して2か月経ったころ、型取りしてブリッジをつくります。
歯とブリッジに接着処理をして、専用セメントでセットしました。
高強度硬質レジンブリッジの治療例②
「ブリッジの歯が虫歯になったみたいなので治してほしい」と来院された方です。お口の中を拝見するとブリッジ奥歯の根元が虫歯でした。
インレーブリッジというタイプの金属製ブリッジが入っていますが、前から5番目の歯の欠損で上下奥歯がすべて揃っている状態なので高強度硬質レジンブリッジで治すこともできます。
「この状態なら保険で白いブリッジもできます。ただし金属製のブリッジと比べて壊れやすいですがどうしますか?」と伺ったところ、
「白いブリッジでお願いします」といったお答えでした。
ブリッジがはいるように歯を削りました。
神経がある歯を削ると、治療の刺激で歯がしみるようになることがあります。通常は数日~1週間でおさまるのですが、稀にしみるのが治らなく神経を取る場合もあるので、通常は仮歯をいれてしばらく様子をみます。
このケースは、仮歯をいれて2週間ほど様子をみました。
さいわい問題なかったので、型取りして高強度硬質レジンブリッジを作りました。
接着処理をしてからセットします。
綺麗にはいりました。
高強度硬質レジンブリッジの破損症例
さて、”高強度硬質レジンブリッジは壊れやすい” と何度か書きましたが、実際に壊れたケースをご紹介します。
前から5番目の歯がなく、保険で高強度硬質レジンブリッジをいれた方です。
装着した当初は問題なく、メンテナンスにいらしていただかなく様子がわからなくなっていました。
その後4年ぶりに来院され、お口の中を見てみると右の高強度硬質レジンブリッジは割れていました。左右ともすり減って穴もあいています。
割れたところは、CRというその場で固まるプラスチックで補修し、すり減っているところはそのまま様子見です。
このようなトラブルは、高強度硬質レジンブリッジでは頻繁に起こることが予想されるのでご希望の方はその点をご理解ください。
歯肉圧排法での型どり
保険も自費も、ほぼ全ての型どりに「歯肉圧排(しにくあっぱい)」という処置をしています。
歯とハグキのあいだに糸を挿入して型どりする方法で、最初に細い糸、次に太い糸をいれて、型取りの直前に太い糸を外します。
すると糸の圧力でハグキが外側に移動し、削った歯のラインが鮮明にでます。
これをすると被せものの合い具合が良くなり、虫歯の再発を予防できます。
シリコン印象での型取り
また、2020年から保険・自費にかかわらず、すべての被せものを、シリコン印象という精密材料で型取りしています。
シリコン印象は材料が高価なため、保険の使用がコスト的に難しかったのですが、Ciメディカルという歯科通販会社が材料を安価に卸してくれるようになって、保険への使用が出来るようになりました。
シリコン印象をすると、模型の精度が上がり、被せものの合い具合が良くなるので、2次虫歯の発生率が下がります。
ときどきインターネットで「保険の被せものは2次虫歯になりやすいので良くない」といった記事を見ますが、あれは寒天アルジネート印象で安易に型取りしたときの話。
歯肉圧排をして、シリコン印象で型取りすれば、保険と自費に精度の違いはありません。
審美性を優先したいセラミックなどは自費でしかできませんが、通常のブリッジや被せものは保険でも十分な出来となります。
金属色の見た目が気になるという理由で銀歯を外し、保険診療で白い被せものに変えることはできません
「見た目が気になって被せものを白くしたいけど、自費治療だと高価で出来ないし…、でも保険なら費用的に何とかなるので聞いてみよう」といったことで、
「銀歯の色が気になるので、保険の白い被せものに変えてもらえないでしょうか?」と質問されるときがありますが、残念ながらそれは自費治療となります。
健康保険は「病気を治す」のが目的で、「見た目を綺麗にしたい」といった審美的な要求は保険の範囲外だからです。(美容整形に保険が効かないのと同じ理由です)
保険診療は病気を治すことが前提。
虫歯になった歯にCADCAM冠という保険の白い被せ物を入れるときや、歯周病の歯を抜いてブリッジを作るとき保険の白いブリッジ(高強度硬質レジンブリッジ)にすることは、病気の治療の一環です。
しかし、「歯自体は何ともないが銀歯の見た目が嫌」というのは病気の治療ではなく見た目の改善、つまり審美目的の治療なので保険が効きません。
また、「歯並びが悪いのを健康保険の被せ物で治せませんか?」というご質問もときどきありますが、歯並びを治す治療は審美的な側面が強く、健康保険が使えないことも、あらかじめご理解ください。
いろいろな歯医者のホームページを見ると…
いろいろな歯医者のホームページを見ていると、マイクロスコープやインプラントなど、自費治療の優位性をうたっているものが多いです。
もちろん、わたしも自費治療をおこなっていますし、その良さを皆さんにお話ししています。
ただ、実際にWeb経由でいらした患者さんと話しますと、こうしてインターネットを見て歯医者を探している方の半数以上は
「そんなものすごい自費治療でなくて、保険診療をしてほしい」のではと思えます。
世の中それほど経済的にゆとりがある人ばかりではありませんし、患者さん全てに最先端の治療が必要ではないからです。
実際、お越しになる患者さんの半数以上はどこかが欠けた、取れてしまったなどの軽度の症状や、重度であっても保険治療を望む方々です。
そのようなこともあり、当院は保険診療をしっかりとおこなっています。
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