90%の人の歯周病は 「歯石除去と歯のクリーニング・歯磨きの強化」を数ヶ月続けると良くなります。
しかし、遺伝的な要因から約10%の人の歯周病はなかなか治りません。
そのような人は通常の歯周病治療(歯周基本治療)だけではなく、フラップ手術という踏み込んだ治療が必要。
若くても遺伝的に歯周病になりやすい人は、手遅れにならないうちに早めに歯医者に来てください。
急激に歯周病が進むのは、10人に1人
歯周病の講演会に出席すると”Periodontal Hyper Responder”という単語を耳にすることがあります。
これは「過剰に歯周病に反応してしまう患者群」という意味で、日本では 昔は “侵襲性歯周炎” と呼ばれていました。
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スリランカの茶畑での論文
歯周病の有名な研究に「スリランカの茶畑の論文」があります。
1970年~1985年の15年間のあいだ、スリランカの茶畑で働いている480人の男性を対象に、歯周病を定期的にチェックした研究です。
その時代のスリランカの農村部は歯磨きの習慣がまったくありません。
つまり、480人全員が15年間歯磨きをしていません。
研究のため何年間も他人に歯を磨かせないなんて今では倫理的に不可能なので、かなり貴重なデータです。
結果は…
15年のあいだに、歯周病が進行しなかった人11%、中等度に進行した人81%、ものすごく進行した人8% でした。
ものすごく歯周病が進行した8%の人が「侵襲性歯周炎」のタイプ。
若いうち(30代ぐらい)から急激に歯周病がすすみ、放っておくと歯が抜けてしまいます。
「しっかり歯磨きしているのに歯が揺れてきた…」
「まだ若いのでハグキから大量の血が出る…」
そんな人は、体質的に歯周病になりやすい10人に1人のうちに入っているかもです。
フラップ手術
歯周病が治りにくい人には、1時間~1時間半の時間をとって 「フラップ手術(歯周外科)」という処置をすることもあります。
歯磨きがしっかりしていることが前提ですが、フラップ手術をすれば、なかなか治らない歯周病も改善します。
フラップ手術をすると、歯石に住み着いた歯周病原因菌( P.g菌、T.f菌、T.d菌 )や、炎症を起こしているハグキを完全に取り除けるからです。
写真はフラップ手術をしているところ。
7~8回通院し、縁上歯石、縁下歯石を全て取り終わったあとなら、フラップ手術は保険でおこなえます。
( それほど大掛かりな処置ではないのですが、”手術って聞くと怖い…” という人もいるので、フラップ手術は患者さんと相談し、ご希望があった場合におこなっています)
大学を卒業して数年のときは派手なテクニックに憧れがち。
わたしは歯医者になって3年目のとき、日本に北欧式 歯周病治療を紹介した先生(岡本浩先生)の歯周外科実習コースに参加しました。
ところが、手技が難しく実践できず残念に思えたことを覚えています。
下はそのときの受講修了証。
「歯が揺れてきて抜けそうなんです」 とおっしゃって来院された方で、 下は初診時のハグキの検査後の写真。
ハグキの検査では歯周ポケットの深さと、出血の有無、歯の動揺度を測定します。
歯周ポケットが3mmの場合は歯肉炎。 4mm以上になると歯周病。
この方の場合、歯周ポケットが4~9mmと通常より深く、周囲の骨が全く無いところもありました。
レントゲンを撮ると上のような状態。〇の歯は残せますが、×の部分は難しいです。
無理な咬み合わせによって、歯の周囲骨が無くなっています。
患者さんに現状をお話し、歯周病の治療にはいりました。
治療の基本は「磨き残しと歯石の除去」
まずは、ハグキをマッサージする「バス法」という歯磨き方法と、歯間ブラシの説明をおこないました。
その後、歯石をとりながら不良な被せものを仮歯に変えていきます。
4ヶ月ほど基本治療をしましたが、3ヵ所のハグキが回復しません。
歯周ポケットが5㎜以上だと通常の方法では歯石がとりきれず、そのまま被せものをすると、あとで歯周病が再発することがあります。
患者さんと相談したのち、治りきらない3ヵ所へはフラップ手術をおこなうことにしました。
術中の写真は撮ってないの割愛させていただきますが、麻酔をしてハグキをめくり、歯石と炎症性組織を取り、最後に縫合します。
1時間程度の処置です。
フラップ手術をおこなうと、ハグキが下がり歯の根元が露出します。
露出した部分は本歯にするときに修正します。
4週間ほど経ち、術後の状態が安定したので仮歯を本歯にしました。
1年弱の長丁場です。
※術前術後には個人差があり、必ずしも同様の治療結果を示すものではありません。
歯周病は、虫歯と違い自覚症状がでませんが、放置すると最終的に歯が抜けてしまいます。
「あやしいな」と思ったら早めに歯医者にいらしてください。