保険診療のブリッジは通常は下のような金属製のブリッジとなります。
保険のブリッジには金属系である『硬質レジン前装冠』か『金銀パラジウムクラウン(FMC)』のどちらかを使うことになり、
ブリッジの場合、「硬質レジン前装冠は前から5番目までが適用範囲、「金銀パラジウムクラウン」は前から6番目~8番目が適用範囲、と保険診療のルールで規定されています。
「金属はちょっと嫌だな…」そう感じる人がいるかもしれませんが、
保険のブリッジで前から5番目まで適用される「硬質レジン前装冠」は『金属フレームに白いプラスチックを貼った構造』なので、横から見たときは前から5番目までの金属は見えません。
「見た目へのこだわりが少なく、不自由なく食事できるようになれば良い」という人は、保険のブリッジで十分だと思います。
なお、硬質レジン前装冠は「色調が不自然に見えることがある」「経年劣化し徐々に変色する」という性質があるので、審美性を重視する人には 「自費の被せもの(セラミック)」 をおすすめします。
『保険のブリッジ』にCADCAM冠・PEEK冠が使用できない理由
「どうしてCADCAM冠やPEEK冠でブリッジができないのですか?」というご質問がときどきありますが、
CADCAM冠・PEEK冠の材料は、各歯科メーカーから販売されているCADCAMブロック・PEEKブロックで、厚労省が保険診療で認可しているCADCAMブロック・PEEKブロックは1歯単位のみです。
ブリッジの構造は最低でも3歯以上の一体型になるため、CADCAM冠やPEEK冠による保険のブリッジは認可外となり作ることができません。
保険のブリッジ治療例
「歯医者が苦手でいつも痛み止めを飲んで我慢していたんですけど、このままじゃマズイと思っていて… 口の中全部を治して欲しいんです。」そうおっしゃっていた方です。
歯医者の受診は12年ぶり。インターネットでいろいろ調べて当院にいらしたそうです。
お口の中を拝見すると、かなり進んだ虫歯が何個もあります。
「すべての歯を残すことは難しいですが、出来る限りのことをしてみましょう。ただ虫歯が多いので長期間の治療となりますけどよろしいですか?」
とお話ししたところ、「よろしくお願いします」とのお返事。
計画を立てて、段階的に治療をすすめていきます。
まず2ヶ月ほどかけて上の前歯3本を根管治療し、その後保存できない歯を3回に分けて抜歯。
この方のように虫歯が多い場合、治療する歯すべてを仮歯にして全体の咬み合わせを修正します。
今回は治療開始4か月で、仮歯への置き換えが終わりました。
歯周病が進んでいる場所には歯周外科(フラップ手術)もおこないます。
歯磨きがしっかりしていることが前提ですが、歯周外科(フラップ手術)をすれば、なかなか治らない歯周病も改善します。
治療開始5ヶ月のときに、上の前歯4本と左下の歯1本に歯周外科手術をおこないました。
手術後1ヶ月半ほどハグキが回復するのを待ち、ブリッジを作っていきます。
右上の仮歯を外して型取りします。
右上には7本つながったブリッジ。
保険診療での硬質レジン前装冠ブリッジです。
左上には4本つながったブリッジ。
こちらも保険診療の硬質レジン前装冠ブリッジです。
8ヶ月後に無事に治療終了。
「歯が悪いのがコンプレックスだったので綺麗になって嬉しいです」と言っていただけました。
※術前術後には個人差があり、同様の治療結果を示すものではありません。
条件がそろえば、高強度硬質レジンブリッジ
2018年の保険改定で保険適用されのが「高強度硬質レジンブリッジ」。
グラスファイバー繊維によって強度を補強したプラスチック製のブリッジです。
(レジンと言うのは、プラスチックの別称)
これによって、”前から7番目の歯が上下左右そろっていて、噛む力が強くない” という条件を満たせば、前から5番目の歯が抜けたときに、保険で白いブリッジができるようになりました。
3割負担の方だと型取りするときに約7000円、装着するときに1万5000円ほどの費用です。
なお、金属と比べて強度が落ちるので、高強度硬質レジンブリッジは噛む力の強い人には不可です。
高強度硬質レジンブリッジの治療例①
他院で「歯が縦に割れて、抜かないといけない」と言われて転院してきた方です。
調べたところ、歯根破折を起こしていました。こうなるともう抜かないと治せません。
その旨をお話しし納得していただいてから抜歯させていただきました。
さて、抜いた後にどうするか。
今回の抜歯は下の5番。
幸いなことに上下すべての奥歯があるので「高強度硬質レジンブリッジ」が適用できます。
「この場所は以前は保険では銀歯のブリッジしか出来なかったのですが、今は保険で白いブリッジも選べます。
銀歯と比べて多少高くりますし、長年使っていると壊れることもありますがどうしますか?」
とお話ししました。
すると、
「白いほうでお願いします」とのこと。
高強度硬質レジンブリッジの予定になりました。
抜歯して2か月経ったころ、型取りしてブリッジをつくります。
歯とブリッジに接着処理をして、専用セメントでセットしました。
高強度硬質レジンブリッジの治療例②
「ブリッジの歯が虫歯になったみたいなので治してほしい」と来院された方です。お口の中を拝見するとブリッジ奥歯の根元が虫歯でした。
インレーブリッジというタイプの金属製ブリッジが入っていますが、前から5番目の歯の欠損で上下奥歯がすべて揃っている状態なので高強度硬質レジンブリッジで治すこともできます。
「この状態なら保険で白いブリッジもできます。ただし金属製のブリッジと比べて壊れやすいですがどうしますか?」と伺ったところ、
「白いブリッジでお願いします」といったお答えでした。
ブリッジがはいるように歯を削りました。
神経がある歯を削ると、治療の刺激で歯がしみるようになることがあります。
通常は数日~1週間でおさまるのですが、稀にしみるのが治らなく神経を取る場合があるので、仮歯をいれてしばらく様子をみます。
このケースは仮歯をいれて2週間ほど様子をみました。
さいわい問題なかったので、型取りして高強度硬質レジンブリッジを作りました。
接着処理をしてからセットします。
綺麗にはいりました。
高強度硬質レジンブリッジの破損症例
さて、”高強度硬質レジンブリッジは壊れやすい” と何度か書きましたが、実際に壊れたケースをご紹介します。
前から5番目の歯がなく、保険で高強度硬質レジンブリッジをいれた方です。
装着した当初は問題なく、メンテナンスにいらしていただかなく様子がわからなくなっていました。
その後4年ぶりに来院され、お口の中を見てみると右の高強度硬質レジンブリッジは割れていました。左右ともすり減って穴もあいています。
割れたところは、CRというその場で固まるプラスチックで補修し、すり減っているところはそのまま様子見です。
このようなトラブルは、高強度硬質レジンブリッジでは頻繁に起こることが予想されるのでご希望の方はその点をご理解ください。
なお、高強度硬質レジンブリッジを装着した人には、保険診療でのマウスピースがつくれません。
また、高強度硬質レジンブリッジ には「過度な咬合圧が加わらない場合において使用する」というルールがあります。
ですので、高強度硬質レジンブリッジ ををセットした人は、原則として保険の「歯ぎしり用マウスピース」が作れません。
”保険の金属ブリッジの色が気になる” という理由で、高強度硬質レジンブリッジに変えることはできません。
「今入っている保険の金属ブリッジの色が気になるので、高強度硬質レジンブリッジで白く変えてもらえないでしょうか?」とおっしゃる人がときどきいますが、残念ながらそれはできません。
保険診療が適用できるのは虫歯などの病気の歯に対してだけです。
『何の問題もない歯だけど、金属の色が気になる』というのは見た目の良し悪しであり、病気の状態ではありせん。
したがって、虫歯などの病気になっていない歯の金属を外して白くしたい場合は『審美診療・美容診療』の範疇となり、健康保険の適用はありません。
(このページに載せている記事も、すべて虫歯や破損などで病的な状態になった歯を治療したケースです)
健康保険は『病気になった人』を助けるシステム
健康保険は『病気になった人』を国民全員で積み立てたお金や税金を使って何とかしてあげようというシステム。
『身体は健康だけど、もっと綺麗になりたい』という個人の願望を満たす治療に、日本に住む人たち全員が積み立てている『病気の人を助けるためのお金』は使えないのです。
とはいっても『綺麗になりたい』という欲求は当然のように人間が持つ願望。
自分の価値観のために自分の稼いだお金を使うのはその人の自由ですので、『審美診療・美容診療』をご希望の方は健康保険を使わずに自由診療で治療を受けていただけますでしょうか。
歯肉圧排法での型どり
ちなみに、内田デンタルは保険も自費もほぼ全ての型どりに、歯科医のわたし自身で「歯肉圧排(しにくあっぱい)」という処置をしています。
歯とハグキのあいだに糸を挿入して型どりする方法で、最初に細い糸、次に太い糸をいれて、型取りの直前に太い糸を外します。
すると糸の圧力でハグキが外側に移動し、削った歯のラインが鮮明にでます。
これをすると被せものの合い具合が良くなり、虫歯の再発を予防できます。
シリコン印象での型取り
また、2020年から保険・自費にかかわらず、すべての被せものを、シリコン印象という精密材料で型取りしています。
シリコン印象は材料が高価なため、保険の使用がコスト的に難しかったのですが、Ciメディカルという歯科通販会社が材料を安価に卸してくれるようになって、保険への使用が出来るようになりました。
シリコン印象をすると、模型の精度が上がり、被せものの合い具合が良くなるので、2次虫歯の発生率が下がります。
ときどきインターネットで「保険の被せものは2次虫歯になりやすいので良くない」といった記事を見ますが、あれは寒天アルジネート印象で安易に型取りしたときの話。
歯肉圧排をして、シリコン印象で型取りすれば、保険と自費に精度の違いはありません。
審美性を優先したいセラミックなどは自費でしかできませんが、通常のブリッジや被せものは保険でも十分な出来となります。
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