北欧の人
「鼻におできができたとき、ひどくなるまで待って鼻を切り取り、銀の鼻をつくる。そんな治療があったら、あなたは受け入れますか? 」

1980年代に日本を訪れたスウェーデンの歯科大学の学者が、集まった歯科医に話した言葉です。

北欧は1970年代から「カリオロジー(虫歯学)」という “虫歯のメカニズムを研究し、制御しよう” という学問が進んでいました。

学者の言葉は、「カリオロジー(虫歯学)」の立場から、従来の日本の歯科治療を皮肉混じりに語ったものです。(うまいこと言うものですね)

虫歯になったら自然に治りませんので削って詰める必要があります。

しかし一度削った歯は取り戻せません。

虫歯になりやすい状態をそのままにしていたら、いくら丁寧に治療しても再発します。

ですので「なりやすい状態」を変えることが大切です。

人間の身体は、年齢を重ねれば変化します。

だんだん白髪が出てくる、基礎代謝が落ちて太りやすくなる、少しずつ記憶力が落ちる
etc etc…

残念ながら、そういった加齢変化に逆らうことはできません。

しかし、自分の心がけ次第で健康を維持することは可能

暴飲暴食を控えて、適度な運動をしていれば極端に太ることはありませんし、
有酸素運動を定期的にしていれば疲れにくい身体に変化します。

このことは歯も一緒。

あなたが「年を取れば、歯が悪くなるのは当たり前」なんて考えてたら、それは間違いです。

定期的な歯石除去・歯のクリーニング・歯磨きチェックによって歯の健康は維持できます。

 

虫歯・歯周病の原因菌をお口の中から減らしていくと、虫歯・歯周病を防げます

口の中は暖かく唾液で常に湿っているので細菌の格好の住処。

口には500種類以上の常在菌が住んでいて、その中に虫歯・歯周病の原因菌がいます。

虫歯の原因は、”ストレプトコッカス ミュータンス菌” です 。
この菌が口の中にある糖類を分解し、酸を出し、酸によって歯に穴があくのが虫歯。

歯周病の原因は、歯とハグキのあいだの “歯周ポケット” に住んだ空気を嫌う菌のうち “P.g 菌”、”T.f 菌”、”T.d 菌” という3種類の菌。これらの菌が出す毒素によって歯周病が発生します。

ただ幸いなことに、原因がわかっているので対処方法もあります。

定期的なメンテナンスをして原因菌を口の中から減らしていくと虫歯・歯周病が防げるのです。

メンテナンスしている歯科衛生士

(メンテナンスは4.5倍の拡大鏡を使った歯科衛生士が、専用個室にて1時間ほどでおこないます)

歯科衛生士のメンテナンスノート

関連記事

歯周病のメンテナンス

メンテナンスでおこなうこと

メンテナンスでおこなうのは 「歯のクリーニング・歯石除去」と「歯磨きチェック」

下の写真は、一見何の問題もありません。

染め出し前の口の中

ところが、染め出しをしてみると

染め出し後の口の中

かなり、磨き残しがついています。

横から見たところ

磨き残しをそのままにしていると 「バイオフィルム」と呼ばれる、台所のヌルヌルや、川底にある石のヌルヌルのような状態になり、歯ブラシでは取れなくなります。

そして、バイオフィルムの中で虫歯の原因菌、歯周病の原因菌がどんどん増えていきます。

メンテナンスではこの バイオフィルムになった汚れを、数か月おきにクリーニングで落とします。

歯のクリーニングの機械

バイオフィルムを1年に3~4回除去すると、虫歯・歯周病の予防効果を得られることが現在、解明されています。

メンテナンスを続けていけば自分の歯を失う確率は格段に減ります。

リスクをわかったうえで「悪くなったら来ます」は、それで良し

なお、リスクをわかったうえで「悪くなったら来ます」という場合はそれで良いと思います。

そもそも人の性格にはいろいろなタイプがあり、予防に来ない人は来ません。
無理にすすめても、結局は信頼関係をそこなうだけです。

ただ、メンテナンスを希望していない方にも現在のお口の状態をお話し、リスクがある場合はその旨をお話ししています。

何もお伝えしないと「先生があのとき 言ってくれたら、しっかり歯の手入れをしたのに」と言われることがあるからで、それはわたしの本意に反します。

メンテナンスでは、歯磨きのチェックをおこないます

メンテナンスでは歯磨きのチェックも毎回おこないます

虫歯・歯周病が進むのは、歯磨きをさぼったり、初期症状がでたころに歯医者に行かなかったりと、ご本人の生活習慣によるものが大きいです。

歯の重要性を意識していなかった…   忙しかった…など、いろいろ理由はあるでしょうが、歯磨きの習慣がそのままだと、たとえメンテナンスを継続したとしても数年後にまた虫歯になってしまいます。

削る→詰める→また虫歯になる→神経をとる→虫歯になる→抜歯 という無限ループにはいり、最後は入れ歯へ。

この負のループを繰り返さないため、わたしも含めてたいていの歯医者は

「歯磨きしたほうがいいですよ」
「メンテナンスに来たほうがいいですよ」

と、お話ししています。

押しつけや、強制はしません。「する・しないは本人の自由」

ただ、ここで問題が…

「歯が悪くなってしまうので、しっかり歯磨きしたほうが良いですよ」

とお話ししても

「そんなことは、わかってるんだけど…」

といった感じで、一方通行のやり取りになることが多いのです。

ですので、最近は
患者さん自身の気づきを待つようにしています。

具体的に言うと、歯や歯磨き状態を染め出ししたところを、デジカメで撮影し

「ここに、まだ磨き残しがありますので、気を付けたほうがいいですよ」

「こういう風な磨き方をすると、今より汚れがよくとれますよ」

など、アドバイスするぐらいで、あまり口うるさいことは言いません。

押しつけや、強制はしません。「する・しないは本人の自由」

しかし、実はこれが効果ありなのですね。

普通の大人なら、歯磨きしないと虫歯や歯周病になることはわかると思います。

ですので、画像に映った実際の口の中を、自分の目でみると
「やっぱり、歯の手入れを頑張ろう」となる人が圧倒的に多いのです。

メンテナンスへの意識は年齢が上がるにつれ高まります

また、メンテナンスへの意識は年齢が上がるにつれ高まります。

10代、20代の人に「メンテナンスが大事ですよ」とお話ししても、正直あまり効果ありません。
自分もそうでしたが、若いときは身体をいたわる発想がほとんど無いです。

ところが30代~40代になると状況が変わります。 身体の不調が出てくる頃だからです。

50代以降は、老いとの戦いのような状況に近づきますので、「メンテナンスが大事ですよ」とお話しすると「そりゃ、そうですね」といった反応が多いです。

 

メンテナンスの例

では、メンテナンスの例をいくつか見てみましょう。

メンテナンスの例①

下は、当院で3ヶ月に一度メンテナンスを受けられている方の写真です。

染め出し前の状態

予防のため歯科医院に通院されている方ですから、衛生意識は高くしっかり歯磨きされています。

染め出し後の状態

しかし、磨き残しは発生してしまいます。利き手の関係上、磨きづらい部位がでるからです。

このような場所をメンテナンスで定期的にクリーニングをしないでいたら、残念ながら、また 虫歯・歯周病になってしまうでしょう。

下の写真はクリーニング後。

クリーニング後の口の中

堆積していた汚れをクリーニングで落としたので、綺麗になっています。

メンテナンスの例②

別の方です。 やはり定期的にメンテナンスに通われていて綺麗な歯です。
毎日、時間をかけてしっかり歯磨きしています。

染め出し前の状態

しかし、染め出しをしてみると、

染め出し後の浮き出た汚れ

磨き残しがあります。

黄色い〇の部分は、プラスチックの詰め物が入っています。
プラスチックは素材そのものに汚れがつきやすいので、ご本人にはどうしようもありません。

この方も3ヶ月ごとにクリーニングしています。

メンテナンスの例③

高齢の方は、メンテナンスしながら経過観察したほうが良いこともあります。

高齢者の歯

70代後半の方で、硬く丈夫な歯をされています。 下の奥歯は入れ歯です。

お口の中を拝見すると、つめのもが欠けたり、色素の混入した歯がありました。

軽度の虫歯

下の歯の問題点

70代後半という年齢を考えると長期間通院するのも大変でしょうし、メンテナンスしながら経過観察することにしました。

同じ状態でも、60代だったら「治した方が良いですよ」とお話ししたかもしれません。

染め出し後

染め出しするとプラークが多いです。このあと、歯のクリーニングをおこないました。

クリーニング後

3ヶ月ごとに健診・歯のクリーニングをして、大きなトラブルが生じたら治療する予定です。

 

メンテナンスのコスト

定期メンテナンスの1回の治療費は3000円弱、時間は30分~1時間
これを1年に3~4回ですので、年間の金額は1万円前後です。

1年間に1万円程度を費やすことで、自分の歯を維持できるのですから、費用対効果は十分です。

何歳になっても自分の歯を維持したいなら、定期メンテナンスが一番確実な方法

わたくしごとで恐縮ですが、40歳を過ぎたころから血圧の数値が上がり、内科の先生にみてもらったところ、
「運動したほうが、いいよ」とのこと。

厄年超えたらしょうがない…
そう思いながら、スポーツクラブに行くようにしました。

筋トレ → ウォーキング& ジョギング → 入浴 合計80分ほどを週2回程度おこなっています。

30代のころも何度かスポーツクラブの会員になったことはあるのですが、「何となく」といった動機だったため1~2か月で行かなくなることがほとんどでした。

ところが、今回は続いています。
「数値の改善」という明確な目標があるからです。

汗をかくのは気持ちいいし、病気になって大変な思いをするのも困る… といった感じです。

運動している時はしんどいのですが、終わったあとは気分爽快。
だんだん体力もついてきて、疲れにくくなってきます。

健康な人生を送るには、身体のメンテナンスが不可欠長いスパンで考えれば、病気予防が第一
身体のメンテナンスをすれば、自分の健康を維持できます。

「痛いとき行く」では無く、「健康を維持するために行く」

歯医者にも同じことがいえます

今は虫歯・歯周病の原因がわかっていますので、定期的なメンテナンスをしていけばかなりの確率で自分の歯を守れます。

「痛いとき行く」では無く、「健康を維持するために行く」そんな感じにマインドチェンジして、定期的な歯石除去・歯のクリーニングにいらしていただくのがベストです。

「病気になってから」では無く、「病気にならないように」にする。
そうすれば自分の健康を維持できます。

 結局は「天然の歯が一番」

天然歯と骨の模型

歯の治療は「治す」という言葉を使うので語弊が生じやすいのですが、実際に治療前と同じになったわけではありません。

組織が再生したわけではなく、代換の材料(金属・プラスチックなど)を歯の代わりにつけただけです。

金属・プラスチックは物ですから、取れたり隙間ができたりしてそこからまた虫歯ができます。

結局は 「天然の歯が一番」という結論に行き着きます。

「治療」だけではいけません。

悪くなった歯は、しっかりと治し、治った歯は定期的なメンテナンスで状態を維持していく。

歯に自信のない方は治療の連鎖をたちきるために、
歯に自信のある方は これからも自分の健康を守るため、歯医者にいらしてください。

あなたのご来院をお待ちしていますね。