物事を判断するときは、メリットとデメリットをセットで整理することが重要。片方だけ見ていると、損な選択や後悔につながります。
セラミック治療の多くは「今すぐしなければならない」といった緊急性はありませんので、早急にあせっておこなう必要はありません。
「セラミックにしたい」という人は以下の注意事項をご覧になり、デメリットも理解してから、お申し込みいただくようにお願いしています。
セラミック治療の注意点
セラミック治療は審美診療です。
審美診療は、綺麗になるために健康な身体に治療行為というリスクを与えるため、多かれ少なかれ自分の健康を犠牲にすることがあります。
① シェード(歯の色)について
セラミックの歯の色の決定には「3Dマスター(VITA社)」もしくは「VITAクラシカルシェード」というカラーサンプル(歯の色見本)を使います。
「3Dマスター」は29色、「VITAクラシカルシェード」は16色の色見本ですが、29色や16色であらゆる歯の色を完全に再現できるわけではありません。
複雑な色や中間的な色は歯科技工士が色の補正をおこない可能な限り自然な色合いに仕上げますが、残念ながら目指している色が完全には再現できない場合もあります。
どういうことか、実例でご説明しましょう。
「前歯を綺麗にしたい」というご希望で来院

「前歯を綺麗にしたい」とおっしゃって来院した方。保険の被せものが入っていますが、かたち・色ともに不自然さがあります。
ご相談した結果、セラミック(e-max)で治すことになりました。

ファイバーコアを装着してから仮歯にし、色のデータを採得します。

技工所から送られた、完成したセラミックです。

口腔内で合わせたところ、『天然歯の根元の色』と「セラミックの根元の色」が少し違っていました。一般の方から見て大きな違いには見えないでしょうし、保険の被せものよりは全然良いと思います。
ただ、わたしのような毎日歯を見る仕事をしている者からすると、微妙な色の違いが気になってしまうのです。
これが、最初に書いた
『あらゆる歯の色を完全に再現できるわけではありません。複雑な色や中間的な色は歯科技工士が色の補正をおこない可能な限り自然な色合いに仕上げますが、残念ながら目指している色が完全には再現できない場合もあります』
ということです。

セラミックは人工物です。『人が作るものなので、色の再現性には限界がある』ということを理解していただきたいのです。
② 生活歯の神経除去の可能性について

セラミックに限らず、歯の治療全般に当てはまることですが、被せものは材料に一定の厚みがないと作製できません。
セラミックは1.0~1.5mmの厚みが必要なので、そのぶん、歯を削ることになります。
上の写真はブリッジを作るために歯を削ったところ、神経が露出する一歩手前の、神経が透けて見える ”ピンクスポット” という状態となりました。
「しみるかも」ということで仮歯で経過を見ていたところ、2週間ほど経ったころから歯が痛くなり、結局は神経をとりました。
セラミックを作るためには歯を削ります。
神経がある歯を削って、その刺激によって知覚過敏や神経の炎症(歯髄炎)が起きた場合は神経をとらないといけないケースがあります。
また、セラミック治療は頻繁に仮歯を着脱する必要があります。仮歯の着脱ごとに神経がある歯の麻酔が効きづらく毎回の治療に支障をきたすと歯科医が判断した場合は神経を除去する必要もあります。


可能な限り神経を残したいのですが、歯の角度を大きく修正する場合や、その歯の神経が大きい場合は、神経を除去しないとセラミック治療ができないことがあります。
③ 形態について
セラミック治療は、”歯がもともと生えている位置” や “骨格” そのものを変えない限り、理想の形態が出来ないことがあります。
「わたしの歯はすごいすきっ歯なのだけど、セラミックで何とかならないかな」
「わたしは下の前歯が上の前歯により出ていて受け口になっているんだけどセラミックで治せないかな」
などが、これに当てはまります。
ちょっとのすきっ歯ぐらいならセラミックで治せますが、
かなりのすきっ歯にセラミックを被せると、相当幅広の歯になっておそらくかっこ悪い見た目になってしまいます。
下の前歯が上の前歯により出ている受け口をセラミックで治そうとすると、上の前歯の方向をセラミックで無理やり変更することになります。
すると、場合によっては被せたセラミックが出っ歯になってしまいます。
また、なんとか被せたとしても人工的に歯の方向を変えると、噛むたびにイレギュラーな力がかかり歯根が割れて抜歯になることが予想されます。
“歯がもともと生えている位置” や 顎変形症で “骨格” に問題がある場合、セラミックを理想の形態にすることは難しいです。
そのようなときは矯正治療が必要です。
実際は「でも、矯正治療まではできないな…」とご本人がおっしゃる場合もあり、相談の結果、そのままセラミックをおこなうこともあります。
その場合、ご本人のお顔立ちに似合うように可能な限り努力しますが、顎の骨格や上下左右の歯の状態によってセラミック治療ではご本人が理想とする歯のかたちにならない場合もあることをご理解ください。
「顎変形症」について
違うテーマになってしまいますが、「顎変形症」についてご存じない人がいるかもしれないので少しお話しします。
「顎変形症」は、『下あごの骨格が大きくでている受け口』や『下あごが極端に後ろに引っ込んでいる状態』『左右の顎がずれて成長している状態』などで日本の健康保険制度では病的な状態です。

内田デンタルにいらした患者さんにレントゲンを撮ると、ときどき、顎変形症の手術でプレートを入れた人がいます。
顎変形症は口腔外科医が顎骨を切断し移動させてプレート固定する『骨切り手術』と、矯正専門医が手術前後の数年間に歯並びを動かすことの併用で治せるのです。

先月初診でいらした方は、東京歯科大学の水道橋病院で顎変形症の手術をして、その後、高崎に引っ越したということでした。
顎変形症は『顎口腔機能診断施設』の矯正歯科医院に行けば保険で治せます
通常の矯正治療は健康保険では出来ませんが、
「顎変形症」は病的な状態なので『骨切り手術』をするのであれば、決められたステップを踏むと健康保険で矯正治療ができます。
決められたステップとは、『顎口腔機能診断施設』という施設基準のある矯正歯科医院で精密検査をして、その結果、「要治療」の診断となり、『骨切り手術』をともなう矯正治療の診療計画を立ててもらうことです。

顎変形症の治療ができる『顎口腔機能診断施設』の矯正歯科医院は、日本矯正歯科学会のサイト
https://www.jos.gr.jp/facility に探し方が載っています。
2026年10月時点で高崎では4軒ですね。
顎を切るのは大変な手術です。全身麻酔ですし、何日も入院します。手術後しばらくは流動食で、下顎に麻痺が出ることもあります。でもそれに見合うメリットもあります。
わたしは歯科矯正医でも口腔外科医でもないので、「顎変形症」に関してはノータッチです。
ここに書いてあること以上の「顎変形症」の詳しいことは、わたしには見識不足で答えられません。
「顎変形症」について詳しく知りたい場合は『顎口腔機能診断施設』の矯正歯科医院に行ってみてください。
なお、もし健康保険で「顎変形症」の治療をおこなうときは「上下顎の骨格を治すことで食べる・話す・顎を動かす機能を改善する」というのが目的です。
「見た目を改善する」という美容目的だと健康保険が適用となりませんので、その点はご注意ください。
さて、話を元に戻して、セラミック治療の注意点をお話しします。
④ セラミックの除去について
セラミックをいれた歯がどれだけ長持ちするかは、患者さんの管理や嗜好物、その人の噛む力や、残っている歯の状態などに左右されるため「〇年もつ」などのお約束はできません。
咬み合わせの力が強い場合は ”ジルコニア” (もっとも硬いセラミック)を選んでいるので、被せたセラミックそのものが割れる壊れるといったケースは開業してから一度もありません。
装着後5年~10年経過すると接着が弱まって脱離することがありますが、失くさずにお持ちいただければ再装着して再び使えます。
問題は歯の根が割れる ”歯根破折” のケース。

虫歯・歯周病はセラミック装着後に歯磨きを頑張りながら、定期的なメンテナンスをおこなえば予防できるのでそれほど怖くないのですが、歯根破折は話が別です。
歯根破折を防ぐ最善の方法はファイバーコアの装着なので、わたしは神経が無い歯に被せものをするときは保険、自費に関わらずファイバーコアを装着します。
ただ、残念ながらファイバーコアを装着しても歯根破折は予測不能に生じます。

上の写真は、ファイバーコア装着後6年経過した歯が歯根破折したところです。
「先生、歯が抜けちゃった」とおっしゃって来院した方のお持ちになった歯を見たところ、完全に歯の根が割れていました。
保険・自費に関わらず、歯根破折は突然起きるのです。
そして残念なことに、セラミックをいれた歯の根が割れた場合(歯根破折)は残念ながらセラミックごと抜歯しないと不快症状をとることができません。
また、セラミックを入れた歯が根の病気になることも考えられます。
わたしは、神経が無い歯にセラミックを入れるとき、「あやしいなぁ」と思ったらラバーダムをして再根管治療をおこなっていますので、今まではセラミック装着後の根尖病巣(根の病気)のトラブルは生じていません。
ただ、ラバーダムをした根管治療の成功率は80~90%です。
今後も絶対大丈夫と断言することはできなく、もしセラミックをいれた歯に根の病気が発生した場合はセラミックを除去しないとその後の治療ができません。
歯根破折や根の病気は歯科医が最善の治療をおこなっても生じることから、
たとえ、歯根破折や根の病気などの何らかの原因でセラミックを除去することになってもセラミック治療費の返金などはしておりません。
当院でのセラミック治療は、その旨ご理解をいただくかたちになります。
⑤ ホワイトニングについて
「せっかくセラミックにするのだから、ホワイトニングもしたい」と、考える人も多くいらっしゃいます。
それはまったくかまわないのですが、ひとつ注意することがあります。
ホワイトニングとセラミック治療を組み合わせる場合は、まずホワイトニングで天然歯を白くし、安定した後にその色に合わせてセラミックを作製します。
逆の順番にするとホワイトニング後にセラミックと天然歯の色が合わなくなります。
⑦『治療計画』および『治療期間』について
治療開始時にお話しする治療計画および治療期間は、あくまでも「おおよその計画」と「おおよその期間」です。
必要に応じて治療計画を修正したり、治療期間を延長することがあります。
セラミック治療などの審美治療が健康保険で出来ない理由
「歯をセラミックで綺麗ににしたいけど、健康保険が何で使えないのかな。保険で出来ればいいのにな」そんなふうに思う人がいるかもしれませんね。
ただ、残念ながらセラミックなどの審美治療には健康保険が使えません。
これは、健康保険は病気やケガの治療が対象で、美容や審美目的の施術は対象外だからです。

健康保険は『病気になった人』を国民全員で積み立てたお金や税金を使って何とかしてあげようという助け合いのシステム。
国民皆保険があるから『病気になったすべての人』が健康保険を使った診療を受けることができます。
しかし、今、日本は借金まみれ。
医療費は年間でだいたい48兆円(歯科は3兆円)で、日本の財政支出で一番の重荷になっています。
増え続ける社会保障費によって日本の財政は破綻しそうな状態で、1000兆円の借金がどんどん膨らんでいます。
そのような差し迫った状況のなか、国民全員が頑張って積み立てている健康保険の元となるお金は『病気の人を助ける』のためのものです。
『審美診療・美容診療』は『病気になった人』を国民全員で積み立てたお金や税金を使って何とかしてあげようという助け合いのシステム。

『身体は健康だけど、もっと綺麗になりたい』という人に国民全員が積み立てた『病気の人を助ける目的の健康保険のお金』は使えませんので『審美診療・美容診療』へ健康保険の適用はないわけです。
しかし『綺麗になりたい』という欲求は、当然のように人間が持つ願望。

自分の稼いだお金を自分で使うのは個人の自由です。『審美診療・美容診療』は健康保険を使わずに自由診療の10割負担で全額を自分で支払って治療すればよいのです。
『審美診療・美容診療』でその人が幸せになるのなら、それはとても良いことです。


