エナメル質の初期むし歯は、削らずに定期的なチェックをおこないます
あなたは、虫歯になっても歯を削らないで良い場合があることをご存知ですか?
虫歯はCO~C4の5段階に分かれます。
数字が大きくなるにつれて大きな虫歯になっていくのですが、そのうち C0(シーオー)、C1(シーワン)と呼ばれる初期虫歯は、削らずに経過観察できます。
CO(シーオー)は⻭の表⾯が⽩く濁ったり、茶色や黒色になった状態で穴があいていません。
C1(シーワン)は歯の表面が少し溶けたけど完全な穴にはなってなく、穴のあく一歩手前の状態です。
CO、C1は歯にまだ穴がないので、歯磨きを頑張ればそのままの状態で問題ないのです。
むし歯は、虫歯菌(”Streptococcus mutans”という細菌)の出す酸により歯の表面からカルシウムやリンなどのミネラルが溶けて、最終的に歯に穴があく病気です。
CO、C1なら、歯磨きを頑張って虫歯菌がいなくなると歯はそれ以上溶けなくなります。
そして、唾液の力でミネラルが歯に戻る『再石灰化』(さいせっかいか)が起こり、むし歯の穴はそれ以上大きくなりません。
「エナメル質初期う蝕管理料」が保険診療に新設
2024年の保険改訂では高濃度フッ素を定期塗布してCO、C1の虫歯を進行停止させることを目的に、「エナメル質初期う蝕管理料」が新設されました。
これは、ごく初期のむし⻭(CO、C1)を発⾒したら、⻭を削らずに、むし⻭の進⾏を防ぐお⼿⼊れや⾷⽣活の改善策を⽴て、歯科で定期的に初期むし歯を確認していこうというものです。
ピンとこない方が多いでしょうから、当院での実例をあげてみましょう。
C0、C1の初期虫歯を削らずに経過観察しているケース①
2019年に初診でいらした方です。穴があいた虫歯は詰め物で治しましたが、CO、C1の初期虫歯は削らずに定期チェックします。
1年後のCO、C1を見ると、最初と比べてまったく進行していません。
半年に一度ほどメンテナンスにいらしていただき、そのたびに歯磨きチェックをおこないながら、CO、C1にフッ素を塗布します。
2年後のCO、C1も大きくなっていません。しっかり歯磨きしているので虫歯菌が少なくなっているのでしょう。
半年に1回チェックしてフッ素を塗布します。
2022年もCO、C1の大きさは変わりません。依然として歯磨きも良好です。半年に1回チェックしながらフッ素塗布をおこないます。
2023年もCO、C1は変化なし。半年に1回、COとC1の状態をチェックしてフッ素塗布をします。
2024年もCO、C1は問題なし。しっかりと歯磨きされています。半年に1回のチェックとフッ素塗布をおこないます。
2025年時点でも大丈夫。2019年と比べてCO、C1はまったく変化していません。歯を削る必要はないですね。
C0の初期虫歯を削らずに経過観察しているケース②
2021年に初診でいらした方です。前歯にCOがありますが、削らずに定期チェックしていきます。
1年後のCOは問題ありません。歯磨きが上手にできているので初期虫歯が進行する気配はありませんね。半年に1回チェックしてフッ素塗布をします。
2023年もCOは問題ありません。歯磨きも問題なしです。半年に1回、COをチェックしてフッ素塗布をします。
2024年も大丈夫です。やはり、半年に1回のCOチェックをしてフッ素を塗布します。
2025年時点でも大丈夫。2021年と比べてCOは変化していません。歯を削る必要はまったくないです。
この「歯磨きに問題なければ、初期むし歯を削らずにフッ素塗布して定期チェックしていく」という内容は平成時代から注目され、2016年には日本歯科医学会(日本の歯科学術団体を取りまとめる組織)が「エナメル質う蝕に関する基本的な考え方」を発表しています。
初期虫歯の経過観察の一例
下の方は7箇所のC1があり、3ヶ月に1回の定期健診で様子をみています。
以前、虫歯の治療をしたのですが、歯がとても柔らかく虫歯になりやすい歯の質をしていました。
そこで「CO~C1は定期的にチェック、クリーニング、フッ素塗布することにより経過観察していきましょう」とお話ししたかたちです。
ご本人の熱心な歯ブラシの成果もあって、その後、虫歯が進行しそうな気配はありません。
他にも、多数の方のC0~C1を定期チェックしています。
虫歯といっても、穴があいているのとあいていないのは別物
ちなみに「CO(シーオー)」は平成6年から学校歯科健診でのチェック項目に入っていますので、お子さんがいる方は耳にしたことがあるかもしれません。
わたしは高崎市立北小学校の学校歯科医をしているので、毎年、約250人の児童のお口の中をチェックしています。
学校歯科健診では穴のあいた虫歯は「C(シー)」とカウントし、穴のあいていない虫歯は「CO(シーオー)」でカウントします。
虫歯といっても、”穴があいている” のと “穴があいていない” のは別物のわけです。
わたしは学生時代にこのことを知りませんでした
穴があいてしまった虫歯はもう仕方ないのですが、CO、C1の虫歯なら削る必要はありません。
ちなみに、わたしは学生時代にこのことを知りませんでした。
そこで自分の歯を見て黒いところがあったら、学生の相互実習で友達に削ってもらっていました。痛くもないし、しみてもいなかったので、CO~C1だったと思います。
そして残念なことに、その場所の1つは詰め物がとれたりを繰り返すようになってしまいました。
経過観察をしていればそんな厄介なことは起こらなかったのですが、自分で頼んで削ってもらったので仕方ないですね。
今考えるともったいないことをしたものです。
歯医者選びは慎重に…
CO、C1に関するケースをもう一つ、ご紹介します。
下の写真は、2017年の10月後半にいらした患者さんの初診時のもの。
最近引越してきて、引越し前の8月~9月にかかりつけ医で虫歯を全部治したそうです。
引越ししたあと10月中旬に別の歯科に行ったところ「4本虫歯があるので治療しましょう」と言われたそうです。
そこで2本治したのですが、
「一度全部治したことだし他の2本は経過観察でもいいんじゃないかな」と思われて、当院を訪ねていらっしゃいました。
お口の中を見ると、上下とも綺麗な歯の状態でそれほど問題あるとは思えません。
しいて言うと下の写真あたりがC0とも言えるので
「これを削るというのはすこし気が引けます。もったいないと思いますよ」とお話ししました。
正直な話、わたしには残り2本の虫歯がどこにあるのか、ぜんぜんわかりません。
レントゲンも撮りましたが、怪しい場所はありませんでした。
引っ越し前に全部治していることですし、もしや、「健康な歯」を削ろうとしているのでは… とさえ思ってしまいます。
歯医者選びは慎重に… としかいいようがありません。
せめてもうちょっと小さく削ってくれればよかったのに
さらに、もうひとつご紹介します。
下の写真はCOを経過観察していたケース。小学生の時から当院にいらしていた方です。
奥歯にCOがありましたが穴になっていないので、ずっと経過観察していました。
10代後半に当院にいらしたときの写真。COがありましたが、虫歯の穴にはなっていないので経過観察しています。
20代前半で当院にいらしたときの写真です。COは虫歯の穴になっていないのでそのまま経過観察。
そして、前回の写真の1年半後にいらしたとき。
「先生…、実は違う歯医者に行ったら、『むし歯があるから削りますね』と言われて、よくわからないまま治療されちゃったんです」ということ。
お口の中を見てみると、奥歯4本に新たなプラスチックが詰まっていました。
”歯磨きの状態も良いし、そんな急に虫歯が進むもんかな? ” と思いながら
「どこの歯医者に行ったんですか?」と伺ったところ、東京に住んでいたときに近くの歯科医院に行ったということ。
COやC1の虫歯が急に大きくなったのかもしれませんが、COやC1の経過観察をしないでいきなり削ったのかもしれません。
実際のところ真相は不明ですが “せめてもうちょっと小さく削ってくれればよかったのに” と思いました。
CO、C1を削らずに定期管理していくのは重要なこと
歯医者というと「歯をけずる」「歯を抜く」「歯にかぶせをいれる」といったイメージをお持ちかもしれませんが、それを続けていくとあなたの歯は無くなってしまいます。
歯の治療は「治す」という言葉を使うので語弊が生じるのですが、実際に治療前と同じになったわけではありません。
歯の組織は再生しないので、代換の材料(金属・プラスチックなど)を歯の代わりにつけるかたち。
金属・プラスチックは物ですから取れたり、隙間ができたりして、そこからまた虫歯ができてしまいます。
CO、C1を削らずに定期管理していくのはけっこう重要なことです。
削って詰めたほうが儲かりますので、”経営優先で削ってお金を稼ぐ方針” の歯医者もありますから、そういうところには行かないでくださいね。